紙芝居おじさんとの出会い -北九州アウェイ漫遊記-

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ブーッ。ブーッ。ツイッタ―の通知音が鳴り続けている。

「○○さんがいいねしました」
「△△さんがリツイートしました」

ガンバ大阪U-23に対して「負け続けていたとしても、選手たちを信じている。だから、北九州まで応援に行ってくる」と、アウェイ遠征の決意をツイートをしたことに対する反応だった。

こうなると言えない。ツイートをした時、実は北九州のご当地グルメ「焼きカレー」で頭がいっぱいだったなんて……。

本性がバレた時、きっと世間の反応は冷たい。

「サッカー遠征というか、ただの観光ですね」
「ブログと人格が違ったのでフォロー外します」

過去の苦い記憶(クソリプ)が、偽りの姿を私に演じさせる。許して欲しい。本当の私はアウェイグルメ巡りが好きな、ぬるいサポーターなのだ。今回の記事で、アウェイ遠征ではどんな行程で、何を考えているのかを紹介することで反省としたい。

「今浪うどん」(ミクニワールドスタジアム北九州)

2018年5月15日

門司港観光

北九州に到着後、最初向かったのは門司港。桃鉄でご存じの方も多いであろう港町だ。今回のアウェイ遠征の相棒は、高校サッカー部時代の同級生・井下(仮名)。数週間前に子供が生まれたにも関わらず、私の道楽に付き合ってくれた。

まずは昼食。前述の通り、門司港名物「焼きカレー」屋を訪問する。数週間前から決めていた。門司港は貿易港として栄えた場所柄、西洋と東洋の良さが混在したグルメがたくさん誕生し、その中でも広く浸透したのが「焼きカレー」なんだそう。

「伽哩本舗 門司港レトロ店」(ミクニワールドスタジアム北九州)

2018年5月18日

焼きカレーが提供されるまでの時間を利用して、ユニホームに着替えた。アウェイの地ではJリーグの経済効果を少しでもPRしようと、必ずユニホーム姿で歩くことにしている。同時に、ユニホーム姿で歩くことで、街の方々から声をかけてもらえる確率もあがる。「遠くからよく来たねぇ」と特別なサービスをしてもらえることも多々。スポーツツーリズムの醍醐味である。

焼きカレーが完成。まずはブログ用の写真撮影だ。様々な角度から何枚も取り直す。私を見る井下の目線が痛い。めげずに伝える。「お前のカレーも撮影していい?」。

今ではブログ記事の充実を優先し、同席した仲間とは違うメニューを注文する習慣もついた。結果、私のスマホ内の写真フォルダは全国のご当地グルメで溢れている。アウェイ遠征を通じ、全国の(食)文化や歴史を知ることができるのは、人生の財産だと思っている。人生とは旅であり、旅とは人生である(©中田英寿)。

門司港観光を終わらせ、スタジアムに向かおうかという矢先、声を掛けられた。

「ガンバのお兄ちゃん、ちょっと寄ってき」

目を向けると、エプロン姿のおじさんが「紙芝居を見ていけ」と手招きをしている。東京であれば確実に無視をしただろう。事実、門司港でも大半の観光客がおじさんを無視していた。私も同様だ。苦笑いとともに、会釈して通り過ぎようとすると……

「人生が変わるよ。この紙芝居にはそういう教訓が詰まっている。3分で終わるから」

おじさん

その言葉を信じたわけではない。ただ、私がユニホーム姿である以上、失礼な態度を取ってガンバの評判を落としたくなかった。渋々、紙芝居前の椅子に座ると、おじさんが一言。

「料金は100円です」

……先に言ってよ。3分で終わるはずの紙芝居は、5分経っても始まらなかった。「君、ガンバ君も参加しているんだから、紙芝居を見ていきなさい」。集客活動を続けるおじさん。私を使って勧誘するのはやめて……。紙芝居は満席にならないと開始されないシステムだった。無視され続けるおじさんの言葉が荒くなる。

「最初から断ってどうするんだ」
「少しくらい話を聞きなさい」

やっぱり席を立とうか。そんなことを考えていた時、鋭くなっていたおじさんの目付きを見て思い出す……はっ!ここは北九州だ。門司港に沈められないためにも、大人しく待つ以外の選択肢はなかった。そこから待つこと5分。私と井下、2人に対して「巌流島の戦い」の紙芝居が披露された。私の人生は一ミリも変わらなかったし、特に新しい教訓を得ることもなかった。スタジアムの到着が予定より遅れただけだった。

誰が為

すったもんだの末、本遠征の目的地である「ミクニワールドスタジアム北九州(通称:ミクスタ)」に到着。ピッチと同じ高さで観戦できる観客席が魅力の新設されたスタジアムだ。海の真横に建設されていることでも話題で、ずっと訪問したいと思っていた。

ミクニワールドスタジアム北九州

観戦環境が素晴らしい(ピッチに近い)と、選手たちの印象も変わる。想像以上に筋肉質な身体であることに気が付いたり、試合中の険しい表情に胸が苦しくなったり。迫力がダイレクトに伝わってくるのだ。ただ、そんな感動も時間が経てば薄れてくる。試合観戦も後半は雑談メインにシフトした。

「このままではガンバが勝てない……選手交代しよう。後半から俺がFWに入るわ」
「あの選手だけDFラインの上げ下げで動きズレてない?澤田(高校サッカー部の友人)やん」
「今のプレーは凄かった。全盛期の俺を思い出す」

大人の会話とは思えない稚拙さ。30歳を過ぎても、“部室の会話”から成長がない。よく私みたいなサポーターがSNSで叩かれているのを目にする。周りに誰もいなかったことはラッキーだった。

試合は1-2でガンバ大阪U-23は敗戦。試合終了直後、ピッチに倒れ込んだ選手が数名いたが、全力を出したと感じる好内容のゲームだった。ただ、今回の敗戦で成績は1勝1分9敗。もちろん断トツの最下位だ。

正直に言って、今節も負ける可能性が高いだろうと思って応援に来た。このチームのサポーターとしては、敗戦の悔しさを感じないくらいには感覚が麻痺している。育成がメインのチームなので、負けても選手個々の成長を確認できれば良いのかもしれない。試合後、項垂れる選手たちの姿に対し、拍手で慰労すべきか、ブーイングで叱咤激励すべきか。リアクションに困ってしまった。

J3の試合会場ではホームクラブの選手たちが、サポーターと密なコミュニケーションを取っている様子を見ることができる。「誰のために戦っているのか」を意識(実体験)できるという部分では、J1以上に優れている環境だと思う。そうした“誰が為”という意識はガンバ大阪U-23の選手たちは持っているだろうか。

「成長」「アピール」という意識だけ勝てるほどJ3は甘くないと、アウェイの地で毎回痛感させられる。だからこそ、私のようなぬるサポでも、なるべく現地で観戦し、声援を送ることで選手たちのモチベーションに貢献したいと思っている。

ガンバ大阪U-23観戦のすゝめ -若手選手がJ3を経験する意味-

2016年4月22日
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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き