先のシルバーウィークに放送された人気ドラマ『サ道』(テレビ東京)のサブタイトルは『人生をサボりながら、ととのう』だった。物語の中心となる3名の登場人物は銭湯で出会い、それぞれ仕事で解決できない課題を抱えていることを語り合う。しかし、鼎談の中では根本解決策は提示されず「あまり自分を追い込み過ぎずに、サウナでも入って心身を休めることにも価値がある」という考えを共有してウェルビーイングを感じる……という内容だったと解釈している。弱みを吐露することで連帯感が強まる描写が妙にリアルで、なんともいえない余韻が残った。
人生には報われない努力がある。その残酷な現実と向き合わないといけない時に、価値を置き換える視点を持つことの大切さは経験的にも理解できる。不満や劣等感を和らげ、精神的に余裕が生まれる。ドラマでもサウナ内では経済合理性とは距離を置くことの意義が語られている。
私にとってのサウナはJリーグ観戦……特にガンバ大阪の応援をすることであるのは間違いない。偏差値が上がらない、内定をもらえない、評価が低い……人生の様々なフェーズで心が折れそうになった時ほど週末のスタジアムが救いになった。
私の人生にはB面があったということ。「けど、スタジアムには行ける」「でも、ガンバの試合が面白い」は自分を納得させることに成功した。
本格的に万博記念競技場に通い始めた時期が遠藤保仁選手や山口智選手ら高ポテンシャルの若手選手が加入し、数年後の明るい未来を信じることができる“高度成長期”だったことも大きい。好成績に連動する形で私もACLやW杯で海外遠征を繰り返すことができ、同時期に始めたブログはファン拡大期と重なったことで様々な出会いをもたらしてくれた。A面の物足りなさをB面が埋めてくれたことはメンタルの安定にも繋がった。
しかし、バブルは崩壊する。
低成長期のメンタリティ
西野朗監督就任後の2002年~2008年頃を高度成長期とすれば、直近の長谷川健太監督体制最終年からポヤトス監督就任1年目の2017年~2023年は(例外的な2020年はあるが)成績を考えれば低成長期と捉えざるを得ないだろう。
そして、低成長期は個人的にも人生のA面における停滞を感じていた時間とも重なる。AB両面で純粋な勝利(成長)至上の熱が冷めた時、保守的な姿勢が身に付くようになる。幻想を手放し、現状の肯定に勤しむようになる。自己啓発本を読まなくなったのもこの頃かもしれない。Jリーグ観戦も視点が変わる。
「負けたけどモフレムは可愛かった」
「負けたけど○○選手が怪我から復帰できて良かった」
精神的な省エネが習慣化してしまうのは性格の歪みか、達観か。0-3で負けている後半30分に「ここから逆転させるぞ!」と拡声器で叫ぶ若者の姿が眩しい。無邪気に未来を信じられる時間は終わっていることは認めざるを得ない。

モフレムなどを誕生させた「クラブコンセプト」は2021年に発表(同年成績:リーグ13位)
だからこそ、そんな時期に視聴した映画『PERFECT DAYS』『ミッドナイトスワン』『ドライブ・マイ・カー』『ちひろさん』などが軒並み【自分の人生を生きろ】というメッセージ性を含む内容だったことには大いに考えさせられた。どうやって映画の主人公たちのようなメンタリティを身につければいいのか、と。
既存の(主流な)価値観に捕らわれない評価軸を身に付けるのは難しい。ただ、その模索を続けない限りSNSでいいねを確認することでお茶を濁し、時間を浪費し続けてしまうリスクも感じている。現実逃避もいいとこだ。
身を委ねるという選択肢
A面もB面も踊り場のフェーズを迎えた時、必要なものは何なのかという問いが本記事の趣旨である。現状分析からそれは成績や社会からの承認を伴わないものであることは分かっている。保守的な思考で自分に言い訳をし続けるにも限界がある。
現時点で答えは出ていないのだが、暫定的なマインドセットに役に立っているのが再度登場の「サウナ」である。
よく行くスーパー銭湯には「瞑想サウナ」なるサウナ室があり、丁度いい高温で何も考えない時間を過ごすことで「A面とかB面とかどうでもいいや~ふわぁ」といった境地に至ることができる。解放されると表現してもいいかもしれない。生活の中でサウナの存在感が増してきている。少し批判的に捉えていた『サ道』の教訓は案外侮れない。
「流れに身を委ねる」「何もしない」ことの価値を過小評価し過ぎていたのではないか。人生の主導権が常に自分にあると考える烏滸がましさを認めた時に他者の承認を必要とせず、もっと上手に自分と会話できるようになるのではという期待感もある。
なるようになる。
人生はトレードオフ。何かを手放すことを許容出来た時に新たな生き方を手にすることができるかもしれない。マグロン選手の退団で、黄金期の基盤となった細かくパスを繋ぐスタイルを構築できたガンバ大阪の如く。
Photos:おとがみ



















