宇佐美貴史選手の復帰から考える“相思相愛”のつくり方

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MBSのドキュメンタリー番組『情熱大陸』。近年の放送では、明るいキャラクターの人物に密着する回ほど喪失の過去を描かれることが多い。解散、婚約解消……影を紹介することで光を際立たせる狙いもあると思うが、そうした過去が当人の今を生きるモチベーションになっている(と、ディレクターが感じた)部分もあるのだろう。

先日映画館で観た『マイ・ブロークン・マリコ』も喪失がテーマの作品だった。友人の自死を受けて、主人公が遺骨をもって旅に出るストーリー。その行動の原動力も「相手が世の中に存在しないこと」であった。

喪失を機に前者は「私(の仕事)を必要とする人」を求め、後者は「友人にとって自分はどんな存在だったのか」の再解釈を試みている。つまり、他者との関係を認識する(≒喪失を埋める)ことで、自分の存在を認めている。人は誰かに求められるから生きていける。

さよならサポーター -喪失と追懐の大阪ダービー-

2022年7月11日

喪失と依存の循環

こんなことを考えたのは、今シーズンのガンバ大阪に怪我で長期離脱選手が複数人出たことに由来する。復帰後のコメントを見聞きする限り、リハビリ中の苦労や、復帰の喜びの背景にも喪失(孤独)があると感じたのだ。

「何より、寝ても起きてもいつも病室に一人という状態は、超心細かったです。去年の脳震盪の時も大概、辛かったけど、今回はあの時以上に一人で過ごす時間が長かった分、メンタル的にもキツかった」(<ガンバ大阪・定期便40>絶対に諦めない。約4ヶ月ぶりの戦列復帰に、福田湧矢が込めた『感謝』

「意識的にそうしたつもりはないけど、脳が勝手に自己防衛反応を働かせて、プロサッカー選手としての電源をオフにしていたんやろうね。携帯電話で言うところの、スリープモードみたいな感じ? 生きてるけど、生きてません、みたいな(笑)」(<ガンバ大阪・定期便41>我らの『宇佐美貴史』を取り戻した日

自分という存在は、自身の目で直接確認することができない。鏡が必要になる。社会においては他者がその役割を果たしてくれる。プロサッカー選手にとっての鏡はチームメイトやサポーター。ただ、その自分を映す存在を、比較的高い確率で発生する怪我で(一時的とはいえ)喪失する。

リハビリ中に孤独を感じる原因として「プレーできない=選手として存在意義がない」という価値観も垣間見える。プレーすること以外に他者(社会)と繋がり続ける術が少ない現状がある。「結果がすべて」だと言われる世界で、怪我をした選手は難しい立場に陥ってしまう。

前述した『マイ・ブロークン・マリコ』では、主人公は自死した友人に生前、病的に依存されている。ただ、その依存によって自分の存在意義を確認できていた節もある。示唆的だなと思ったのは、主人公が遺骨を持った旅の道中にひったりくりに遭い、一文無しになったところを地元住民に助けてもらう(=依存せざるをえない)シーン。実はその地元住民も過去に自死を考えたことがあり……と話は続いていくのだが、喪失と依存の循環とでも言うべき巡りあわせに、人が社会で生きることの意味を考えさせられた。

サポーターをやめるとき

2018年4月20日

宇佐美選手の復帰がここまで喜ばれた理由

話が遠回りになったが、要は経済合理性が強いサッカー界を少し心配している。勝つこと、儲けること……一元的な考え方でサッカー(選手)を捉え過ぎていた自身の反省もある。

宇佐美選手の負傷離脱中には、ベンチに飾られた39番のユニフォームを試合直前に三浦弦太選手が触りに行く様子を度々見かけたが、そうした繋がりが薄れている時にこそ相手の存在を認識していることを示す行動が持つ意味は大きい。

宇佐美選手の復帰がここまで喜ばれたのは、卓越した技術による勝利への貢献度の高さもさることながら、積み重ねてきたガンバ愛の要素も大きいのではないか。J2を戦う時代(2013年)に戻ってきてくれたこと、コロナ禍の中断期間中に動画配信でコミュニケーションを継続してくれたこと、2021年オフにはフロンターレからのオファーを断って残留してくれたこと……「今度は私達が宇佐美選手を応援したい!支えたい」と思わせるエピソードの数々。

プロとして高く評価してくれるクラブへの移籍を積み重ねることも、海外での挑戦を続けることも素晴らしいと思うが、相思相愛のクラブで長く続けるキャリアもまた違った良さがある(先日、仕事で島村毅さん&猪狩佑貴さんの話を聞いた時も同じことを思った)。宇佐美選手に関しては復帰2試合目で、既にピッチ内ではチームが彼に依存気味なのも悪くないクラブとの関係性だ。

「無償の愛」なんて言葉は、恥ずかしさもあって人はあまり口にしない。ただ、その連鎖で社会が回っている側面はあるし、誰かに差し出した手が結果的に自分を助けることにも繋がるということ。コロナ禍ですっかり定着した「クラウドファンディング」に協力した人は、返礼品の魅力以上に「クラブの苦境を助けたい」という想いが動機だったと思うし、そうした思いやりの連鎖がクラブを健全に存続させる。

与えよ、さらば与えられん。それを体現する宇佐美選手の姿から学ぶことは多い。

Photo:おとがみ

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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き