フットサル日本代表から早稲田大学へ。鈴木隆二が大学サッカー界で実現したいこと

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2021年10月末日、日本サッカー協会よりフットサル日本代表コーチングスタッフ・鈴木隆二の退任が発表された。同職に就任した2016年8月からの約5年間で、FIFAフットサルワールドカップ リトアニア2021でのラウンド16進出をはじめ、監督を務めたAFC U-20フットサル選手権イラン2019では初優勝を果たし、同年の「Futsal planet Awards」では日本人初となる「最優秀代表チーム監督部門」にノミネートされるなど、日本フットサル界に確かな功績を残した。

だからこそ退任後、鈴木にはいくつかのフットサルチームや組織からオファーが届いた。検討すること数ヶ月。鈴木が出した結論は「早稲田大学ア式蹴球部コーチ」への就任。なぜフットサル界ではなく、サッカー界での挑戦を選んだのか。決断の背景には、鈴木の指導哲学があった。

選手にも自分にも求めた“主体性と適応力”

「この5年間、全力でやりきったという思いはありました。だから、悔いとか、やり残したことはないですね」

物事が終わる寂しさ以上に、新しい挑戦が始まることを楽しめるのが鈴木という男が持つメンタリティである。振り返れば、高校時代にブラジル留学を経験し、駒澤大学体育会サッカー部卒業後にはフットサル選手への転向を決意。現役引退後、指導者としてのキャリアはスペインから始めるなど、常に自身が成長するために新しい刺激を求めてきた。

「行き当たりばったりなだけですよ」と本人は笑うが、自らの力で道を切り拓き続けてきた自負がある。自分が置かれている状況を見極め、決断し、全力を尽くす。それは選手を指導する際にも大切にしてきたことだ。

「練習してきたことを試合に出せる能力はもちろん重要ですが、僕が選手に求めていたのは“主体性と適応力”。試合展開を理解して、予測して、どんなプレーをすべきかを反射的に決断する。毎試合、展開は違う中で、その状況にあった決断を適切に行えるか。例えば、海外移籍も同じですよね。分からないことだらけで、不安になることもあると思いますけど、新しい環境に適応できる能力を身につければ、将来の可能性が広がっていくので」

選手に求めた以上、自分も行動で示す。フットサル日本代表コーチ退任後のキャリアとして、フットサル界以外の道を選択するのは必然だったのだろう。2022年1月24日、早稲田大学ア式蹴球部コーチに鈴木が就任することが発表された。

指導者としてのキャリアを開始したスペイン・カル―ニャサッカー協会には今でも定期的に訪問し、現地指導者と意見交換を行っている

世界のトップに立つためには“創造性”を鍛えることが必要

鈴木と早稲田大学ア式蹴球部の関係が始まったのは今から約3年前、2019年秋にさかのぼる。共通の知人を通じて、監督を務める外池大亮にコンタクトを取り、『サッカーに活きるフットサルの戦術』をテーマに選手への指導を行った。以降、フットサル日本代表コーチを務める傍ら、外池とは定期的に連絡を取り続け、お互いの指導に対する考え方の理解を深めていったことが今回の就任に繋がっている。

鈴木が大学サッカー界での指導を決意したのは、選手の“人間的成長”に寄与できることが大きい。特に自分で目的を定め、努力をする“主体性”と、他者の価値観を理解し、尊重する“多様性”は自身が大学での4年間や海外経験を通して、最も成長を実感した部分でもある。

そして、それは外池が早稲田大学の選手たちに求めていることでもあった。

「コーチ就任前の面談で、外池さんから『これからの社会で生きていく上で、自ら課題を発見して、様々な情報から学び、多くの人と連携して解決策を生み出せる人材を育てていきたい』という話を聞いて共感しました。僕はU-20フットサル日本代表監督を務めている時に、サッカー選手をフットサル日本代表として招集しました。それは彼らがフットサル選手とは異なった特性を持っていたからです。異なった特性を持っている選手同士を連携させて、チームを作り上げていくことの重要性を感じていました。外池さんの考え方に近いところがあると思います」

外池はプロサッカー選手引退後、大手広告代理店、衛星放送会社に勤務した経験もあり、学生を指導する領域はサッカーだけに留まらない。YouTube番組やnoteでの情報発信など、選手の主体的な“課外活動”を積極的に支援している。チームに足りないもの、好影響を与えるものは何でもやれ。多様な経験がピッチ上でのプレーにも活きてくると考えてのことだ。

そうした主体性や多様性を尊重する外池のチームマネジメントには、同じ指導者として鈴木も刺激を受けている。

「これまでの指導経験や、スペインや日本で様々なチームの試合やトレーニングを視察して感じているのは、指導者の知識の範囲内で選手のプレーが収まってしまうリスク。だから、様々な刺激から新しいものを生み出す“創造性”を鍛えることが必要で、外池さんから学ぶところは多いです」

早稲田大学ア式蹴球部は学生主導で運営されており、鈴木が考案した練習メニューにも学生からのフィードバックが積極的に行われる。お互いの考えを尊重しつつ、新しいアイデアが生まれる環境はまさに求めていたものだ。

「世界の強豪国に近づくために、強豪国の真似することは有効です。だけど、世界のトップに立つためには創造性を鍛えることが必要。サッカーとフットサルのハイブリッドな指導者を目指していきたい」と語る鈴木が今後、早稲田大学ア式蹴球部でどのような化学反応を起こすのか。周囲以上に本人がその変化を楽しみにしている。

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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き