南葛SCへの移籍はキャリアダウンなのか? -新しいクラブとの関わり方-

メディア寄稿実績

今シーズン開幕前は橋本英郎選手、安田理大選手らガンバ大阪の黄金期を支えた選手達が新天地探しに苦労した。ネームバリューだけでは飯が食えない世界。ある時から年齢と自身の価値が反比例するサッカー界の特殊さ、残酷さをあらためて感じさせられる出来事だった。

それでも、私の中で元ガンバ大阪の選手達への視線が変わることはない。彼らは永遠のスターだ。年俸が下がっても、所属クラブのカテゴリーがアマチュアになっても、プレーに全盛期のようなキレがなくても、その想いは変わらない。生でプレーを観られる機会があるのなら、今の姿を応援したい。

そんな気持ちでサポーター仲間と足を運んだのは、亀有駅からバスで10分程度の所にある「奥戸総合スポーツセンター陸上競技場」。橋本選手や安田選手と同じく昨シーズン終了後、所属クラブから契約満了を告げられた今野泰幸選手(以下、今ちゃん)をはじめ、稲本潤一選手、下平匠選手、安田晃大選手など、元ガンバ大阪の選手が多数所属する南葛SCのホームスタジアムだ。

関東サッカーリーグ1部は甘くない

メディア露出の多い南葛SCに関する詳しい説明は不要だろう。前述した元ガンバ大阪勢以外にも関口訓充選手、伊野波雅彦選手らビッグネームの獲得で話題になった関東サッカーリーグ1部所属の社会人サッカークラブである。

私が観た試合は5/1(日)対 栃木シティフットボールクラブ戦と、5/28(日)対 TOKYO UNITED FC戦の2試合。両試合ともに入場料無料とはいえスタジアムは満席。G.W.に開催された栃木戦は事前申請制の観戦申込は数日で定員到達という人気ぶり。ゴール裏では応援をリードするサポーター軍団の存在も確認できた。

南葛SCの試合を観ようと思ったのは「FOOTBALL TIME」など、サッカー番組への出演が続いた今ちゃんの表情がとても明るかったから。今ちゃんと言えば有名な「舌をかんで死のう」発言に代表される通り、メンタルが不安定であるイメージの強い選手。

ACLの応援で韓国(浦項)に行った際、復路の便がガンバの選手達と同じで、今ちゃんが絶望的な表情で関空を歩いていた姿を見た時の衝撃は未だに忘れられない。メディアが報じる今ちゃんのキャラクターが事実であることを知った瞬間だった。だから、南葛SCに有名なメンタルアドバイザーの方が就任されるニュースを聞いた時は少し安心した。

大雨の影響でびしょ濡れ観戦した栃木戦は、下平選手が気の毒な警告2枚で退場になった影響もあり、0-1で敗戦。TOKYO UNITED戦は力の差を見せつけられて、1-4の完敗。残念ながら南葛SCの関東1部リーグ初勝利を観ることはできなかった。怪我の影響等もあり、下平選手以外の元ガンバ勢の出場機会もなし。関口選手など元Jリーガー勢が「さすが!」というプレーを要所で披露するも、それが勝利に直結するほどサッカーは簡単ではない。関東1部リーグのレベルは想像以上に高かった。

Jリーグにはない!?南葛SCの魅力

ピッチ外に目を向けると、選手・クラブ関係者とサポーターの距離の近さが印象に残っている。スタジアム外の物販コーナーでは選手が直接ファンとコミュニケーションを取っていたし、代表取締役の高橋陽一先生も普通に観客席を歩いていて、サポーターと挨拶を交わしていた。

ガンバ大阪U-23の応援でアウェイ遠征をした時も感じたが、クラブの所属カテゴリーが下がるほど、この傾向は強くなる。特に南葛SCは個人でも選手のスポンサーになれたり、トークンを発行していたりと、クラブが公式にファンとの距離を縮める仕組みも提供している。“先進的な取組みをするクラブ”……そう評価しているサッカーファンは多いのではないか。

今回の観戦を終えて、考えているのは「Jリーガーが南葛SCへ移籍するのはキャリアダウンなのか?」ということ。年俸、人工芝、夜練習、試合会場への移動手段(選手自身の車)、クラブハウス(がない)、審判のレベル……トップカテゴリーと比較した時にネガティブな部分がないとは言わないが、Jリーグにはない魅力があることも事実。

誰に対しても平等に時は流れて、心身共に変化して、今を生きている。その時々で輝くのに相応しい環境がある。サッカー選手にとってキャリアの後半に南葛SCでプレーするのは、これまで積み重ねた努力で勝ち取った“ステップアップ”と捉えることもできるのではないか。

記事の冒頭で「年齢と自身の価値が反比例するサッカー界」と書いたが、南葛SCのようなベテラン選手を上手く活用(評価)するクラブが増えてくれば、そうした常識も変わってくる。

亀有のショッピングモールに展示されている南葛SCコーナー

某番組で今ちゃんは南葛SCの一員としてピッチ内外で活動することを「自分が変われる機会」と発言していた。例えば、広報、スポンサー企業への営業・交流、試合運営……Jリーグではフロントスタッフが担う業務を選手も経験できるのは、南葛SCに所属するからこそ得られる刺激だ。ビジネスサイドの経験はきっとセカンドキャリアでも活きる。

Jリーグでは選手は個人事業主として捉えられ、活躍しても、しなくても数年でクラブを離れることが頻繁に起きる。また、支出における選手人件費が占める割合の高さ(フロントスタッフへの投資の少なさ)はよく指摘される課題だ。この2点においても、南葛SCの独特な組織体制(人材確保)は興味深い。

フロントスタッフとしての顔も持つ選手の存在が、ピッチ内外でどのような効果をもたらすのか。南葛SC所属の選手(フロントスタッフ)のツイッター等を読むと、クラブに対するコミットメントが高そうな気もする。

スタグルにも翼くんのイラストがプリントされている

40歳を越えてJ1でプレーを続けるヤットのようなキャリアも素晴らしいが、急成長する新興クラブの顔としてプレーするキャリアにも価値がある。元ガンバ大阪の選手をはじめ、元Jリーガーの選手達がキャリアの後半に南葛SCで素晴らしい時間を過ごせることを祈っている。

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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き