ワールドカップ観戦でブラジルを訪問した際、日本代表の試合が行われるスタジアム前で某TV局から「インタビューいいですか?」と声をかけられた。曰く、ニュース番組で放送する用の映像を撮りたいのだが、協力してくれる人がいなくて困っているという。
協力してあげたい気持ちはあるものの、残念ながら私は滑舌が極端に悪い。「申し訳ないのですが、遠慮しま……」と断ろうした瞬間、隣にいた後輩が「あっ、いいっすよ」とまさか承諾。感謝の言葉を告げるTV局スタッフ。インタビューは実行された。
「すぐに終わる」と聞いていたインタビューは数分間続けられ、質問は多岐に渡った。ただ、カメラに向かって話すのは意外に気持ちが良く、特に「期待する選手は?」という質問に対してヤットへの期待を話した際は、自分の感情が高まっていくのを感じた。自分の回答に対して笑顔で頷いてくれるTV局スタッフの姿に手応えを感じつつ、その場をあとにした。
試合後ホテルで携帯電話を確認すると、大量のメールが届いていることに驚いた。「ブラジルに行っているの?」「TVに映っててびっくりした!」等々、例のインタビュー映像を使ったニュース番組を観た友人たちからの連絡だった。私の滑舌は問題なかったのだ。彼らのメール文面からそう解釈した。
しかし、実際に放送されたニュース映像を帰国後に確認し、その認識が間違いであったことを知る。多くの質問に回答したのにも関わらず、その大半はカットされ、放送されたの10秒程度。しかも、私の発言には字幕が付けられていた。ヤットへの期待を話したくだりは1秒も使われていなかった。
ヤットは何も悪くない。悪いのは私の滑舌だ。TV局スタッフの笑顔は苦笑いだったのかもしれない。日本代表の敗戦に加え、ダブルショックなブラジルの旅だった。
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