コロナ禍でアウェイ遠征の自粛を余儀なくされている2020年~2021年。「せめて読書で模擬体験だけでも」と購入した書籍が『フットボール風土記』だ。
JFL、地域リーグ、都道府県リーグ……“ハーフウェイカテゴリー”に所属するサッカークラブが本書の取材対象(テーマ)である。読み進めて、まず感じたのは、著者が取材に向かう道中に見た街(の雰囲気)に関する描写の心地良さ。取材旅を模擬体験しているような気持ちになるし、要所で挿入される写真がさらにその感情を高めてくれる。
書き手は宇都宮轍壱さん。私自身、サッカーをオン・ザ・ピッチだけではなく、文化的、社会的な側面から解釈する楽しさは、同氏の書籍や記事を何度も読んで学んだ。サポーターカルチャーにも精通されており、鈴鹿アンリミテッドFCが、地域リーグファンの一部から「お嬢様」と呼ばれている、といった小ネタが挟まっている点も本書の魅力である(※「お嬢様」の理由は書籍を購入してご確認を)。
メディアを通じ、決定事項としてサッカークラブのビジョンや、サッカースタイルを見聞きする機会は多い。例えば、「いわきFC」の『日本のフィジカルスタンダードを変える』というキャッチフレーズは有名で、一度は聞いたことがあるサッカーファンは多いだろう。一方、「なぜこのキャッチフレーズに至ったのか」という経緯を知っている人はどれだけいるだろうか。
私自身もハーフウェイカテゴリーに所属するクラブの取材機会がある中で、本当の意味でクラブを理解するためには、その土地(ホームタウン)の歴史や、特徴を知る必要性を痛感している。
本書を通じて勉強したのは、各クラブそれぞれにサッカークラブを運営する背景(理由)はありつつも、(Jリーグクラブとの対比で)ハーフウェイカテゴリーに共通する考え方も垣間見ることができたことだ。彼らの考えを知ることは、Jリーグクラブの新しい見方を獲得することにも繋がる。そういう意味では、普段Jリーグしか見ないサッカーファンこそ読むべき一冊なのかもしれない。
書籍概要
書籍名:フットボール風土記
著者:宇都宮轍壱
発行:株式会社カンゼン
価格:1,700円(税別)
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「追記」の魅力
宇都宮轍壱さん本の特徴は、各章の最後に数行で記載された「追記」である。取材(掲載)時から本書発売時点において時間が経過していた場合、「その後のストーリー」が事実のみ淡々と書かれている。これが実に深い……いや、重いと書いた方が正確か。
大いなるビジョンを語っていたクラブが不祥事を起こす。地域のスポーツ文化の中心地として期待されたスタジアム建設が中断する。具体的なクラブ(地域)名はあえて書かないが、ワクワクした気持ちで読み進めていった最後に記載された“厳しすぎる現実”に感情がついていかない。
ただ、浮き沈みがあるのは世の常。数年後はどうなっているか分からない。読むタイミングによって味わいが変わる、長く手元に置いておきたい一冊である。
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