北海道日本ハムファイターズの新本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」建設の裏側を書いた一冊。同スタジアムの公式戦こけら落とし前日に発売。書き手は『嫌われた監督』のヒットが記憶に新しい鈴木忠平さん。卓越した登場人物の心情描写や情景描写によって、まるでフィクションの映画を観ているかのような感覚になる作品。
書籍概要
書籍名:アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち
著者:鈴木忠平
発行:文藝春秋
価格:1,980円
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反感と共感
「エスコンフィールドHOKKAIDO」建設における建設地決定までの経緯を、発案者である前沢賢氏(北海道日本ファイターズ/事業統括本部長)を主人公に、ステークホルダーである「北広島市役所」「日本ハム本社」「新聞記者」「札幌市役所」「札幌市商店街振興組合連合会」それぞれの目線から時系列に振り返った一冊。
登場人物の野球やファイターズ、新スタジアムへの想いが、過去の経験を含める形で丁寧に深堀りされているので、感情移入がしやすく、作品への没入感を味わえ、共感や説得力を生んでいる。複数の登場人物の視点が描かれることで見えてくるものも多く、300ページ近い大作ながら一気に読み切った。
特にスタジアム建設地が北広島市に決定した1日にスポットをあてた第9章「運命の日」は必読。北広島市役所内で、功労者たちの想いが交錯(結実)する数ページの描写は、ノンフィクションだからこそ味わえる感動がある。
ファイターズの新スタジアム建設地に関する当時の報道はチェックしていた。立場によって敵・味方がはっきりし、賛否両論が飛びかう殺伐な雰囲気もあったと記憶している。私も部外者の立場から「札幌市はダメだなぁ」なんて思っていたが、この本を通じて知ることができるのは、それぞれの立場で苦悩し、葛藤し、衝突もするけれど、“同志”の部分があるということ。
契約当初はスタジアム建設反対派だった日本ハム本社の川村浩二氏(代表取締役専務執行役員)が、現在はファイターズの球団社長であるという人事に代表されるが、コミュニケーションを重ねる中で、それぞれの考えが変化し、共感を得られる過程も読みどころの1つ。だからこそ、“変われなかった(共感を得られなかった)”札幌市が持つ課題や、札幌市市長・秋元克広氏の苦悩も印象に残っている。
ドリームジョブだと言われる、プロスポーツビジネスの「光と影」。「エスコンフィールドHOKKAIDO」関係者の皆様、お疲れ様でした。
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