試合後、サポーターに手を振り、ベンチに戻る藤ヶ谷選手の姿を見て声が出なくなった。これまでも何度だって色んな選手の引退を経験してきているはずなのに……。溢れ出た特別な感情が藤ヶ谷選手の偉大さの証明だろう。
セカンドキーパー
藤ヶ谷選手と同じく、今節で引退するFC東京・石川直宏選手は試合後のセレモニーで自分に関わるすべての人への感謝を語った。誰かのサポートがあってこそ自分が輝くことができる。サッカーだけに限らず、多くの人にとっても同じだろう。怪我を経験したからこそ重みがある素晴らしいスピーチだった。
そんな石川選手のスピーチを聞きながらキャリアの晩年は“サポートする側”の時間が長かった藤ヶ谷選手のことを想った。ガンバ大阪に2度目の移籍をしてきた後は「セカンドキーパー」としての役割を全うした。ガンバの歴史を振り返れば、レギュラーを争う中で都築選手と松代選手の両GKが口を利かなくなったこともあったと聞くが、ライバルのミスがチャンスである世界で、セカンドキーパーとしての立場を受け入れたことはもっと評価されていいはずである。
東口選手が調子を落とした時期、ハーフタイムや試合後に藤ヶ谷選手が寄り添い、励ましているシーンを見たことは一度やニ度ではない。ライバルと切磋琢磨して高め合う関係性も素晴らしいが、最近の東口選手の復調ぶりを見るとセカンドキーパーが正GKの味方でいてくれる意義もあると感じる。

「ガヤる」という心ない言葉が流行った時期もあった。味方であるはずのガンバゴール裏からも罵声が飛んだ。相手サポーターから藤ヶ谷選手のスタメン紹介時に拍手をされる屈辱もあった。一番苦しかった時期に藤ヶ谷選手の味方はいなかったのではないか。私自身も批判をしていた記憶がある。そうした苦しかった経験がキャリアの晩年、セカンドキーパーとしての立ち振る舞いにつながっているのだとすれば……何と感謝を伝えればいいのだ。本当のフォアザチームの精神とは藤ヶ谷選手のような振舞いのことを差すのだろう。
藤ヶ谷選手がガンバ大阪で引退を決めてくれたことをサポーターとして誇りに思う。そして、試合後の鳴りやまぬ藤ヶ谷コールが少しでもセカンドキャリアを歩み出すサポートにならんことを。

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