田中達也選手に対するブーイング -理解と違和感の間で-

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予想通りマッチデープログラムの表紙には田中達也選手が印刷されていた。古巣相手の選手を活用したプロモーションは、どのクラブでも実施される賑やかしの常套手段である。そうした“煽り”が効いたのか、大分トリニータのスタメン紹介時に田中選手の名前がコールされると、ガンバ大阪ゴール裏から大きなブーイングが響き渡った。ブーイングは試合中も彼がボールを持つたびに続けられた。

個人的には“プロレス”としてブーイングを楽しませてもらったが、周りを見渡せばモザイクが必要な指のジェスチャーをしている人、ピー音を被せたい罵声を発している人を一定数確認し、自身の解釈とズレがあることを認識した。……本当に怒っている。

気持ちは分かる。言葉を選ばず端的に表現すれば「田中達也は裏切り者」ということだ。在籍半年での退団は義理人情に欠ける。スタメンに定着しつつあったタイミングの移籍という点も心証を悪くした。

応援することはできないけれど

先に断っておくが、田中選手を擁護するつもりはない。応援もしていない。ただ、彼へ意見が感情論先行になっている違和感はある。今回の移籍によって発生した「移籍金の獲得」「福田(若手)選手の出場機会増加」など、クラブにとってポジティブな側面にも目を向けたい。

「逃げるが勝ち」の価値観が広がりつつある世の中において、なぜ田中選手の移籍は許しを得られないのかという疑問もある。我慢が美徳とされない時代に、今回の移籍はむしろ第三者的には賞賛の対象となってもおかしくないとも思う。

特に現役期間の短いプロサッカー選手であればなおさらである。問われるべきは辿り着いた先での姿勢や結果だろう。誰だって「なりたい自分」と「求められる自分」の狭間で悩み、決断してきた経験を持っているはずだから。

田中達也選手はブーイングに何を思ったか

試合後、ガンバゴール裏に挨拶に来た田中選手の姿には何の感情も生まれなかった。好き・嫌いではない。正誤でもない。そこあったのは彼が信じる道と、我々が進む道が違ったという事実だけ。それは双方にとっての否定ではない。

ガンバゴール裏に一礼した後、小走りでトリニータベンチに戻る田中選手の姿を最後まで見届けることなくスタジアムを後にした。

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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き