福田湧矢、不遇を越えて -大阪ダービー2019-

メディア寄稿実績

1-0で迎えた後半アディショナルタイム。自陣でのクリアの流れから疲労を感じさせないスプリントでカウンターを仕掛ける福田湧矢選手。状況は数的優位の3対2。パスを出せば決定機だった。しかし、彼の選択はシュート。キム・ジンヒョン選手がキャッチした時、パスを待っていたウィジョ選手は項垂れ、アデミウソン選手は激昂した。

しかし、あの場面でシュートを打つ覚悟を持って試合に挑んだからこそ、福田選手は90分間躍動したのだと思う。自ら判断し、遠慮のないプレーを繰り返す姿は頼もしかった。そして、そうした若手選手の積極性を盛り立てるパナスタの雰囲気は、万博時代からガンバサポーターが持つメンタリティを表している。ワンプレーワンプレーに対して通常より大きな声援を送り、それに応えるかのように縦への勝負を繰り返す福田選手の姿にクラブの底力を感じた。

キックオフ直前に声をかけて勇気付けた倉田選手、水沼宏太選手との小競り合い時に真っ先に駆けつけて抱きしめた菅沼選手など、大一番の若手起用でチームとしての一体感が高まった感もあった。クラブの総合力で勝ち取った大勝利だ。

倉田の決勝弾に喜ぶガンバイレブン

新時代の幕開け

ガンバ大阪U-23での福田選手のプレーを観ていれば、ダービーの活躍は決してサプライズではない。しかし、昨シーズンの加入からダービーに至るまでの道は決して平坦ではなかった。

クルピ監督の大抜擢により、高卒開幕スタメンという華々しいJリーグデビューを飾ったものの、その後はU-23で過ごす日々が続く。そこでもスタメンに入れない試合や、慣れないポジションでの起用、東福岡高校の先輩・髙江麗央選手と試合後に揉めている姿も見た。

先日、筑波大学蹴球部の小井土監督を取材した。その際、大学でサッカーをするメリットとして「大学は4年間拘束されるので逃げ場がない。この与えられた環境で自分と向き合って成長せざるを得ない。そこがJリーグとの違いかなとは思います」という言及があった。高卒でプロを選んだ福田も環境に原因を求めず、不遇な時間の中でも自分と向き合えたからこそダービーの躍動があったのだと思うと感慨深い。モチベーターとして若手選手のポテンシャルを引き出し続けている森下仁志U-23監督の勝利でもある。

福田の起用に関して、試合前に不安がなかったかと言えば嘘になる。ユース出身でもない2年目の若手選手がどこまでダービーの重みを理解してプレー出来るのか。しかし、不安は杞憂に終わる。激しく球際を戦う福田の姿を応援しながら、彼が幼い頃からガンバで戦うことを夢見てきたことを思い出した。当時10歳の福田少年は「2分の1成人式」で自分の夢をこう書いたという。

『東福岡に入ってガンバ大阪に入団したい』

そこから10年が過ぎ、成人となった彼は次にどんな夢を描くのだろう。我々サポーターもその夢を応援したい。福田湧矢選手の新章が始まった。

Digiprove sealCopyright protected by Digiprove
人気記事紹介

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き