試合前、松本山雅サポーターによる「アルプス一万尺」のチャントが終わった瞬間、ガンバゴール裏から拍手が起きた。直後、それに対してガンバコールリーダーから注意があった。「拍手なんてしてるメンタリティだから、俺達はいつまで経ってもあれ(アルプス一万尺)ができないんだ」といった趣旨の事を言っていたと記憶している。言いたい事は分かる。だから、私も心の中では「うおおぉぉぉぉぉぉ!すげぇぇぇぇぇ!」と思いながらも「だから?(ニヤニヤ)」みたいな顔をしていははずだ。

ただ、仕方ない。

きっと皆、反射的に拍手をしてしまったんだ。私だって鳥肌が立つのまでは隠せなかった。埼スタ、ユアスタ、日立台……熱狂を生む様々なスタジアムを何度も経験してきたが、松本山雅サポーターの躍動感は本当に凄かった。こんなに感情が高ぶるスタジアムがまだ日本にあったなんて。今シーズン初めて、相手サポーターにライバル心を持った。

サポーターとして原点のような気持ちにさせてもらった今、改めて考えたい。何があの熱狂を生むのか。「アルプス一万尺」が出来る様になるためにサポーターが持つべきメンタリティとは何なのか。

熱狂のスタジアム「アルウィン」

サポーター成熟過程の違い

ガンバ大阪サポーターとの比較から考えたい。ガンバ大阪はJ2では勿論、J1でもトップクラスのサポーター数を誇っている。アウェイ戦への動員数等から考えると「熱狂的な(コアな)」サポーターの数も多い。これは2005年のJリーグ優勝をきっかけに積み重ねてきたタイトルの成果(財産)の1つである。

一方で松本山雅はクラブの誕生過程が違うので単純比較はできないものの、地域リーグからJ2に昇格する過程であれほどまでのサポーターが育っている。ロック総統の名言「“今そこにある”サッカーを愛せ!」のメンタリティであの熱狂が生めるのであれば日本のサッカー文化成熟の未来は明るい。地域リーグやJFLを経験しているからこそ生まれるクラブへの愛や一体感もあるのかもしれない。

しかし、同じような過程を歩んできたクラブが全て松本山雅のようにはなっていない。松本山雅には長野パルセイロとのライバルクラブが存在するが、それだけで熱量があそこまで大きくなるとは思えない。天皇杯でレッズサポの応援を経験した事もターニングポイントになったみたいだが、同じような経験は他のクラブも積んでいる。何か他にも理由があるはずだ。

コミュニケーション能力の高さ

松本遠征で体感した事から仮説を立てる。アルウィンの熱狂の源、それは松本山雅サポ(松本市民)の「コミュニケーション能力の高さ」をベースとした「勉強熱心さ」である。

今回ほどアウェイ遠征時に現地の方から声をかけられた事はない。「今日はお疲れ様でした」、「ありがとうございました」なんて当たり前。シャトルバスの中では唐突に「これ良かったら」とガンバサポの私に松本山雅の試合スケジュール表を渡され、先にスタジアムに着いていたサポ仲間は同じく唐突に山雅サポからオニギリとお茶をご馳走になったそうだ。同様の出来事はガンバサポからツイッターなどを中心に数多く報告されている。

対戦相手のサポーターに対してもこんな感じなのだから、同胞である松本山雅のサポーターに対してはもっと活発なコミュニケーションがなされているのだろう。開門前のアルウィンを散策したが、まるで雰囲気はピクニックのようだった。隣人とのコミュニケーションを避けがちな都会とは対照的な光景だった。

また、今回の遠征でもう1つ印象的だったのはツイッター上で多くの山雅サポがガンバサポの松本(山雅)に関する呟きをRT(拡散)やお気に入り(保存)している事。リアルの世界同様にWEBの世界でもコミュニケーションに積極的で、ガンバサポの呟きから未来の自分達を想像するツイートも散見された。松本山雅サポは他サポから学び、未来を想像している。

新しいビッグクラブの形

引き分けておいて偉そうな事を言って申し訳ないのだが、松本山雅はJリーグでオンザピッチのクオリティとサポーターのクオリティに差があるクラブだ。褒めている。オンザピッチの充実が現在のサポーターのクオリティを形成してきたガンバとは逆のパターンで、サポーターがクラブを牽引しているように見える。選手達にとっては最高の環境だし、そのように成長していった先にはどんなクラブの理想形が待っているのか興味深い。

「アルプス一万尺」ができるようになるために必要なものとは何か。上記仮説はアプローチの1つにすぎないし、山雅サポに「全然違う」と一蹴されるかもしれない。ガンバにはガンバの、松本山雅には松本山雅の道がある。ただ、ガンにとってJ2を戦う今シーズン、過去20年とは違う方法で進んでいかなければならない1年間において、この松本山雅(アルウィン)との出会いは貴重だったし、一度立ち止まってこの先の道の進み方を考えてみるのも悪くない。

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ABOUTこの記事をかいた人

1日中サッカーのことばかり考えているダメ社会人。ガンバ大阪サポーター。東京在住の30代男性。10年間の衛星放送会社勤務を経て、スポーツを勉強するために大学院に入学。炭水化物抜きダイエットを実施中。好きな食べ物はカレーライスとラーメン。