「サカダイ・ナンバー時代」から「さっかりん・ブログ村時代」を経て……サッカーメディア閲読変遷史

メディア寄稿実績

全国高校サッカー選手権大会が閉幕した。優勝した青森山田高校をはじめ、選手達の技術的な高さが素晴らしかったのは勿論、印象的だったのはTV番組で見聞きしたコメント力だ。

ピッチ内外のあらゆる事象に対し、18歳前後の選手があれだけ適切に自身の考えを言語化していることに驚かされた。さらに興味深いのは、そのコメントに多様性があったこと。定型文で受け答えしないのは、各々の選手が自分で考え、プレーしている証拠でもある。

第100回全国高校サッカー選手権は青森山田高校が優勝

彼らは18歳に至るまでに、どのような情報に触れて自身のサッカー観を形成してきたのだろうか。情報量の多い時代に多感な10代を過ごしたことを羨ましく思う一方で、取捨選択する難しさもあったはず。

そんなことを考えながら、辿るのは自分の過去の記憶。私達世代(30代後半)は情報=紙の頃から、ネットの誕生、SNSの普及と、情報環境的には大きな変化があった時代に10代~20代を生きてきた。今回の記事ではその変遷を振り返る。

第三者目線の価値 -サッカー界のフェイクニュースを入口として-

2021年2月21日

高校~大学時代(2000年代)

私の……いや、“私達”の高校時代におけるサッカーに関する意見は、基本的にメディアの受け売りだった。今ほどサッカーメディアが多様化していなかったので、ネタ元は「サッカーダイジェスト」「サッカーマガジン」「Number」あたりの紙メディアに限られ、それゆえサッカー部内の意見もまとまりやすかった(同じような意見しか出なかった)ように記憶している。したり顔でもっともらしい意見を言う奴に対して、「それ、Numberに載ってた記事のパクリやん」と心の中でツッコミを入れたことは一度や二度じゃない。

メディアに対する信頼が高い時代背景もあっただろう。雑誌の情報=正解という共通認識があったので、オリジナリティを考えるよりも、“真似る(メディア情報に近づける)”ことに重きを置いてチームは練習をしていた。今考えると、チーム内のディスカッションは良くも悪くも少なかったと思う。

紙メディア発の意見が当時の主流派だとすれば、カウンターカルチャー的に登場したのが「2ちゃんねる」だ。忖度なき議論には熱量があったし、このメディアから複数の流行語も誕生した。私が大学生の頃が最も勢いのあった時代で、人と違う意見を言いたい奴がよく見ていた印象がある。

ただ、ネット掲示板上の情報は玉石混淆であり、読み手にリテラシーが求められた。頓珍漢な意見にも信者が付き、多様性の弊害として「意見がまったく噛み合わない」存在と出会うことも増えた。

私はこの時期もまだ紙メディアが好きで、一番読んでいた雑誌は刺激的な特集タイトルが話題になる「サッカー批評」(森哲也編集長時代)。この雑誌の影響もあり、サッカーに関する興味が少しずつオフザピッチ(ビジネスサポーターカルチャー)にシフトしていった。

社会人時代(2010年代)

社会人になってからはネットで情報を取得する機会も増え、当初は「Google リーダー」に代表されるRSSリーダーで情報を得ていた。PV(広告)モデルの弊害として、ネットメディアの記事の質が落ちてきたタイミングでもあり、信頼するメディアからのフィードを朝晩の通勤時間に確認し、気になるものはメモを残して、アウトプットに活用するサイクルは情報収集の方法として心地良いものだった。

その時間軸(ストック型)で情報を処理することに慣れてしまったので、SNS時代(フロー型)の情報スピードには当初、なかなか慣れることができなかった。リアルタイム性が重視されることは、情報の賞味期限が短くなることでもあり、良質な記事が“流れていく”ことへの違和感は今も持ち続けている。

その違和感はWEBメディアから再度、紙メディア……「書籍」へと情報収集先を変化させた。前述の通り、オフザピッチへの関心が高かったので、それをテーマとして扱っている宇都宮徹壱さん木村元彦さんの本を好んで何回も読んだ。

大学時代に専攻した社会学の勉強を再開し、論文にも興味を持つようにもなった。正しいエビデンスをベースとした情報が欲しかったし、当時は毎週更新していたブログの情報発信もそう在りたかったからだ。この志向は現在まで続き、仕事と並行して大学院入学という選択に繋がっていった。

ガンバ大阪サポーターがブログを書き続けてきた理由

2018年10月18日

今後(2020年代)

最近の情報コンテンツは「クラウドファンディング」「オンラインサロン」に代表されるファンに作成プロセスを公開し、“共創感”を醸成することで閲覧を促すアプローチが流行している。インフルエンサーが徒党を組み、相互扶助的に情報を拡散する様子もよく見かける。コミュニティをいかに形成できるかが重要な時代だ。

ただ、読み手としては、誰とも群れずに“独走型”で運営されている個人ブログが好きで、今でもよく読んでいる。情報過多の時代では個人ブログは埋もれがちだからこそ「さっかりん」や「ブログ村」等を利用しつつ、主体的に情報収集をするようにしている。私も同じブロガーとして、同族嫌悪ならぬ“同族愛好”の精神で、サッカーへの確かな愛が感じられる文章を読み、様々なサッカーの捉え方を学ばせてもらっている。

最後に

情報発信側の立場としても、ブログを引き続き大切にしていきたい。1万人に5秒見てもらえるツイッターも良いが、10人に5分読んでもらえるこのメディアが好きだ。広さよりも深さを重視したいのは、自分の人生観でもある。

コミュニティを形成できるほどの影響力は持てなくても、かつての自分のように「サッカーを語る仲間がいない」人にちょっとした楽しみを提供できれば嬉しい。短文・動画・音声の時代に、ブログは時代遅れのメディアなのかもしれないが、もう少し続けてみようと思っている。

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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き