「争うは本意ならねど」(木村元彦)

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この本がなければ、「ドーピング冤罪事件」を正しく理解出来ていなかった可能性がある……そう考えるとゾッとする。我那覇和樹選手への誤解は依然として残っており、この本を通じて正しい事実が広がって欲しいと切に願う。著者の木村元彦氏はあとがきでこう書いている。

我那覇はJリーグと闘ったのではない。Jリーグを救ったのである。

風化させてはいけない事件である。最終的に、CAS(スポーツ仲裁裁判所)が我那覇選手を“シロ”と判断するに至るまで何が起きていたのか。私は忘れないようにしたい。

書籍概要

書籍名:争うは本意ならねど -ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール-

著者:木村元彦

発行:株式会社集英社インターナショナル

価格:1,500円(税別)※文庫版も発売中

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Jリーグチームドクター連合 VS. 青木治人(Jリーグドーピングコントロール委員会)

我那覇選手への点滴治療に関するサンケイスポーツの記事(誤報)を発端とする「ドーピング冤罪事件」の顛末が事細かく、時系列に記載されている。話の中心は浦和レッズの仁賀定雄ドクター、サンフレッチェ広島の寛田司ドクター、我那覇選手への治療を施した川崎フロンターレの後藤秀隆ドクターを中心とする「Jリーグドクター連合」と、我那覇選手に処分を下した「Jリーグドーピングコントロール委員会」青木治人委員長のドーピング違反をめぐる戦いである。

結論は前述の通りシロなのだが、そこに至る過程は苦難の連続。当初から完全にシロであると確信していたJリーグチームドクター達は、川崎フロンターレから辞任を求められた後藤ドクターや、処分を受けた我那覇選手……そして、治療の未来を守るために立ち上がる。詳細はネタバレになるので割愛するが、不誠実な対応に終始する青木治人委員長や、聞く耳を持たない鬼武チェアマンを前に戦いは長期化する。

かなりのページを割いて記載されている「連絡協議会」や「Jリーグ実行委員会」でのJリーグチームドクター連合VS.青木治人委員長のやりとりは必読。同事件の論点が明確になる過程を知ると同時に、当時のJリーグの組織体質を垣間見ることができる。板挟みの立場となる田嶋幸三氏や、川崎フロンターレ武田信平社長の同事件に対するスタンスも考えさせられるポイントのひとつであった。

広がる支援の輪

話し合いでは決着がつかず、CASに臨むことになり、何千万円もの私財投じた我那覇選手を支えようとする支援の輪の広がりが最大の読みどころ。計4回は読んでいるが同郷・沖縄のサッカー仲間や、川崎フロンターレサポーターらが我那覇選手の力になろうと奮闘する記述に毎回涙してしまう。自浄作用が機能しないJリーグとの対比の中でより彼らの良心が際立って心に響いた。

あらゆる逆風や圧力に不屈の精神で立ち向かうドクター連合の決意。そのドクター連合に背中を押される形で立ちあがった我那覇選手の覚悟。本書を読み終えた時、Jリーグの救世主である彼らに感謝と尊敬の念を抱かずにはいられないはずだ。

我那覇選手がCASの最後に話した言葉を記載して本記事を締める。

また、私と同じような経験をする選手があってはならないと願っています。

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1 個のコメント

  • 後にでもかまわない、青木委員長は謝罪コメントを発したのだろうか?
    権力あるものは、まちがいを謝罪しなければならない

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    ABOUTこの記事をかいた人

    1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き