「アルプス一万尺」の歌い方 -アルウィンに熱狂が生まれる理由-

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試合前、松本山雅サポーターによる「アルプス一万尺」チャントが終わった時、ガンバゴール裏から拍手が起きた。それに対して、ガンバ大阪のコールリーダーは「拍手なんてしてるメンタリティだから、俺達はいつまで経ってもあれができないんだ」といった趣旨の発言をしたと記憶している。言いたいことは分かる。だらこそ、私も心の中では「うおおぉぉぉぉぉぉ!すげぇぇぇぇぇ!」と思いながらも「だから?(ニヤニヤ)」みたいな顔をしていたはずだ。

ただ、仕方ない。皆、反射的に拍手をしてしまった。それくらい凄かった。埼スタ、ユアスタ、日立台……熱狂を生む様々なスタジアムを経験してきたが、松本山雅サポーターの躍動感は特別だった。こんなに感情が高ぶるスタジアムが、まだ日本にあったなんて。久しぶりに相手サポーターにライバル心を持った。サポーターとして原点のような気持ちにさせてもらった今、あらためて考えたい。一体、何があの熱狂を生んでいるのか。

松本山雅のホームスタジアム。通称「アルウィン」 

サポーター成熟過程の違い

まずは、ガンバ大阪サポーターとの比較から考えたい。ガンバ大阪はJ2では勿論、J1でもトップクラスのサポーター数がいる。アウェイ戦への動員数等などから考えると、熱狂的な方も多い。これは積み重ねてきたタイトルがもたらした成果の1つである。

クラブの誕生過程が違うので、単純比較はできないものの、地域リーグからJ2に昇格する過程で松本山雅にあれほど熱狂的なサポーターが育った事実。地域リーグやJFLを経験している(苦労している)からこそ生まれるクラブへの愛や一体感、絆もあるのかもしれない。

しかし、同じような過程を歩んできたクラブがすべて松本山雅のようにはなってはいない。何か他にも理由があるはずだ。

“ガンバ特需”の落とし穴 -アウェイ鳥取遠征-

2013年8月22日

コミュニケーション能力の高さ

松本遠征で体感したことから仮説を立てる。アルウィン熱狂の源……それは松本山雅サポの「コミュニケーション能力の高さ」である。

今回の遠征ほど、現地の方から声をかけられた記憶がない。「今日はお疲れ様でした」「ありがとうございました」なんて当たり前。シャトルバスの中では唐突に「これ良かったら」と松本山雅の試合スケジュール表を渡され、開門待ちのスタジアム周辺ではオニギリとお茶をご馳走になった。同様の出来事はツイッターを見る限り、他のサポーターも経験しているようだ。

「そば処 種村」(サンプロ アルウィン)

2019年8月15日

対戦相手のサポーターに対して、ここまでコミュニケーションが活発なのであれば、仲間である松本山雅サポーター同士の交流はどれだけ濃密なのだろうか。思い返してみれば、試合前のアルウィンは“ピクニック大会”が開催されているかのような、穏やかな雰囲気だった。隣人とのコミュニケーションを避けがちな都会とは違う世界がそこにはあったし、試合中の熱量とのギャップにも驚かされる。

その圧倒的なコミュニケーション量はSNSの世界でも同じであった。松本山雅サポーターが、ガンバサポーターの松本(山雅)に関する感想を積極的に拡散していたのだ。ガンバサポの呟きから、クラブの未来像を考えるツイートも散見されるなど、クラブへの高すぎるエンゲージメントを感じた。

新しいビッグクラブの形

引き分けという結果で、上から目線の文章になって申し訳ないが、松本山雅はオンザピッチのクオリティと、サポーターの熱量に差があるクラブだ。オンザピッチの充実がサポーターの熱量や人数増加を牽引してきたガンバ大阪とは違う。どっちがいいという話ではないが、松本でプレーする選手にとってはやりがいがあるだろう。そうした過程を経て発展していく松本山雅というクラブの将来は非常に興味深い。

J2での経験を積むこの1年間において、松本山雅(アルウィン)との出会いは貴重なものになった。J1では経験できないあらゆる経験からガンバの未来を考えて見るのも悪くない。

【信州ダービー観戦記】多様性の時代に必要な一体感 -サンプロ アルウィンの熱源を探して-

2023年10月16日
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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き