1993年Jリーグ開幕戦の主審を担当したことでも有名な元国際審判員で、現在はアセッサーや専門学校での講師として後進の指導にあたる小幡真一郎さんの著作。その名も『しくじり審判』。書籍のカバーにもそのイラストが載っているが、小幡さんは「ストイコビッチにイエローカードを出された事件」はじめ、「賈秀全VSラモス瑠偉事件」など、サッカーファンであれば一度は聞いたことがあるであろう伝説の当事者でもある。そんな“しくじり(失敗)”から学びを得ることをコンセプトとした、サッカー審判にとって教科書的な内容となっている。
書籍概要
書籍名:しくじり審判
著者:小幡真一郎
発行:カンゼン
価格:1,870円
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ペットボトルを投げられた側なのに……
本書は「しくじりエピソード紹介」「審判の技術レクチャー」「都並敏史さんとの対談」の3部で構成されている。どれも興味深い内容だが、サッカー審判(を目指していない)ではない方も含めて気軽に楽しめるのは「しくじりエピソード紹介」の章だろう。
“しくじり”とタイトルが付いているものの、「サポーターから『ハゲ!』と野次られた」「観客席からフランクフルトが投げられた」など、被害報告的なエピソードも多数収録されている。印象的だったのは、小幡さんがある試合でレッドカードを提示した後、その判定に怒ったサポーターが小幡さんに向けてペットボトルを投げたという話。この事象だけでも十分気の毒にも関わらず、試合後(小幡さんの上司にあたる)審判委員長からは「危機管理ができていない」と注意されたのだとか。審判に求められるスキルは高い……。
本書全体を通じて「メンタルコントロール」がテーマとなっている感もあり、サッカー審判という仕事がフィジカル以上に、メンタル的にハードなものであることをあらためて知ることができる。教師としての顔も持っていた小幡さんが、以前居酒屋で「教え子と同じくらいの年齢の選手から『アホ』『ボケ』と言われるのはなかなか辛いですよ……」とこぼしていたことを思い出した。
威圧的(機械的)な態度で選手とコミュニケーションを取る審判が、批判されているのをよく目にする。確かにその行為自体は良いことだとは思わないが、「なぜそうした態度をとるようになったのか」という視点(背景)もセットで考えたくなった。
今では仏のような穏やかな雰囲気を身にまとう小幡さんであるが、Jリーグの過去試合映像で見切れる小幡さんの表情は今とは少し違う。現在(仏)の境地に至るまでに、何度苦難を乗り越えてきたのか。緊急事態宣言も解除されたので、久々にご飯にお誘いして、話を聞いてみようと思っている。
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