Jリーグで主審を務めた経験がある人物の中で、最も知名度がある存在といっても過言ではないだろう。ただし、それは必ずしもポジティブな意味ではなく……。家本政明。家本氏の名を多く人が認識したきっかけは、2008年のゼロックススーパーカップだろう。退場3名、警告11名を出す大荒れの試合を担当した家本氏はその責任を問われる形で批判に晒された。いや、批判ではなく、誹謗・中傷という表現の方が正確かもしれない。
そこから8年。残念ながら、家本氏へ眼差しはさほど変化していないように思える。試合前、スタジアムで名前がアナウンスされると一部ファンからブーイングが起きているのが現状だ。一度貼られたレッテルはなかなか剥がせない。そうした難しい状況下で、家本氏は何を考えているのか。本書はそれを知る参考になる。
書籍概要
書籍名:主審告白
筆者:家本政明
発行:東邦出版
価格:1,500円(税別)
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誹謗中傷。そして……
読みどころはやはり批判(誹謗中傷)を受けていた頃に本人が何を考えていたのか振り返っている部分。サポーターからは見えないピッチ内の事情(リアル)を知れば、見え方(家本氏への批評内容)は変わってくる。特にJリーグは審判サイドからの情報発信が少ないので、一方的な視点で解釈せざるをえなかったが、本書を読むことでサッカーを多角的に捉えるヒントを得ることができる。主審(家本氏)への偏見をなくす意味でも是非一度読んで欲しい内容となっている。
また、本書を通じて家本氏が“理論家”や“哲学者”のキャラクターも持っていることは意外であった。ヨガやバレエといった他スポーツをはじめ、歌舞伎や演劇など、異業界から多くの学びを得たエピソードが多々紹介されている。岡田武史氏が初めて日本代表監督に就任した際、「自身への懐疑の目を払拭するためには理論武装で固めるしかなかった」旨のコメントを聞いたことがあるが、家本氏はどのような経緯で外からの刺激を求めたのだろうか。
最後に、ヨーロッパと比較して日本の主審は尊敬されず、守られてもいない現状への言及があるのだが、本書を一言で総括するならば「孤独」である。家本氏本人も認めているが、そのアウトローなキャラクターに至った経緯を知れば、家本氏、主審への視点は変わるはず。サッカーを支える仲間として主審を一人にしてはいけない。
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