平昌五輪が開幕した。開会式の南北統一旗を見ていると色々思うところがある。五輪とは何なのか。実体を知りたい。この本を手にした動機である。
13年もかかったという長野五輪の開催に至る道筋を、そもそもの発端から解き明かし、大イベントに振り回される地方自治体と地域住民の笑えない実体をつぶさに描き出す。
プロローグに記載された内容通りの内容となっている。扱うテーマは「1998年長野冬季五輪」。五輪招致のきっかけとなった信濃毎日新聞記者による料亭での会合から物語は始まり、そこから……
- 長野市と松本市の対立を背景としたマスコミによる県民世論の誘導
- 五輪反対派議員・今井寿一氏への圧力
- 長野市独特のピラミッド型自治体組織「区長会」制度の利用
- JOCと長野市による大会組織委員会ポストを巡る争い
- 「ホワイトスノー作戦」による外国人労働者の取り締まり強化
- “一店一国運動”“五輪協力会”“公務員のボランティア”など半強制的な県民稼働
など、表には出てきにくい出来事が批判的な目線と共に紹介されている。「官主導の五輪」であることを証明する出来事のオンパレードに「五輪とは誰のものなのか?」と疑問を持った。
書籍概要
書籍名:長野オリンピック騒動記
著者:相川俊英
発行:株式会社草思社
価格:1,600円(税別)
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一校一国運動
「官」ではなく信濃教育委員会主導により実施された「一校一国運動」についての章が印象的であった。各学校ごとにひとつの国を決め、交流活動や学習を進めるというものだ。スポーツをきっかけ(媒体)とし、相手国の文化や現状を知る。韓国を選んだ古里小学校ではこの運動をきっかけに交換留学をするまで関係を発展させた。活性化した理由はシンプルで「子供たちがやる気になった」から。提案者である「長野国際親善クラブ」の小出博治氏はこう語っている。
「子供たちは言葉が分からなくても、外国の人と接して、楽しんでいる。交流というのは、言葉が先行するものではない。言葉が通じなくても、相手を知って、楽しく付き合えば、小音は通じる」
こうした運動が持つ意義は我々サポーターもアウェイ遠征を通じて相手国や地域への理解が深まる体験をしているので肌感覚でも理解できるものだ。2020年には東京五輪も控えているが、良い部分は引き継いでもらいたい。
まとめ
ここまで緻密な取材を重ねて書かれたスポーツドキュメンタリー書籍は発行年は前後するが「争うは本意ならねど」以来の読みごたえであった。次々に露わになる事実はまるで山崎豊子
の小説を読んでいるような重厚感。特に五輪の国内候補地決定投票において西武の堤義明氏が政治力を発揮するくだりは興奮を隠せなかった。これはドラマか……と。
また、今では半ば自明なものであるが五輪招致委員会が招致活動を通じて“ダークサイドに落ちる”過程は五輪の闇。政治と金。何がそこまで人をそうさせるのか。長いものには巻かれないと生きていけないのか。そんなことも考えさせられた。これは人間ドラマが描かれた一冊でもある。