「ベイスターズ再建録」(二宮寿朗)

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私が応援するガンバ大阪は、2022年から新クラブコンセプトを掲げ、ビジネス面での強化に着手している。新しいエンブレム、新しいマスコット、新しいイベント、新しいグッズ……それらを評価する声もある一方で、競技面での成績低迷も影響し、批判の声も根強い。サッカー界では前例のない改革ゆえにモデルケースも見つけにくく、「それならば……」と手にしたのが、この本。

敗戦をチャンスに -今、ガンバ大阪のオフザピッチが面白い-

2022年4月19日

書籍概要

書籍名:ベイスターズ再建録 -「継承と革新」その途上の10年-

著者:二宮寿朗

発行:双葉社

価格:1,760円

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常識を超えて

横浜DeNAベイスターズ10周年を記念して、2021年6月末に発売された一冊。スポーツビジネス界も成功事例として、最も語られることの多いDeNAによるベイスターズ改革を、各部署の社員一人ひとりにフォーカスをあて、担当した施策の背景とともに紹介されている。

堅苦しくなりがちな「スポーツビジネスコンテンツ」だが、二宮寿朗さんの筆力で“物語”として楽しめる。普段はあまり表に出ることのないビジネス側の施策が多々紹介されているので、単純に「そんな仕事があるんだ」という視点での学びも多かった。

印象的だったポイントは2つ。

1つ目は、個人的には「DeNA=IT企業=合理的な判断=ドラスチックな改革」という印象を持っていたが、意外にも旧体制の想いを尊重していること。各業界独特の文化、人間関係がある中で、“そちら側”の想いも尊重した上での改革だったことが成功要因の1つなのだろうなと。その上で、改革のスピード感を出せるのはさすが。近年は古い習慣と捉えられがちな「飲みニケーション」をはじめ、エモーショナルな交流が要所で出てくるのも興味深かった。

2つ目は「ビジネス側と競技側の融合」。本書で最初に紹介されるエピソードは、DeNAベイスターズ初期に監督を務めた中畑清氏によるフロントスタッフに対する喝。部署の垣根を超えた、球団としての一体感を重要視しているエピソードの数々は必読。

一般的にはビジネス側と競技側は、良くも悪くも非干渉が暗黙のルールだと思われている節がある。しかし、ビジネス側の集客努力がモチベーションに繋がったと語る現場サイドのコメントなどからは、今後はこうしたベイスターズの考えが常識になる時代も来るのかもしれないと感じた。

サッカー界でもフロントスタッフが「チームの成績には関与できないけど……」といった趣旨の発言をされているのをよく見聞きするが、案外そうではないのかもしれない。数年後は「ビジネスばっかり重視しやがって!チームの強化を優先しろ!」のような批判が頓珍漢なものと捉えられる時代が来ている可能性はある。

まとめ

この本に登場する人物は皆、仕事を楽しんでいる。「野球が好きだから、前職から給料半分でも転職してきた」のような“スポーツ業界あるある”は依然として課題だが、自らも楽しむ(姿を見せる)ことで周りを巻き込み、会社を、業界を盛り上げる姿勢が支持される時代になりつつあるのは素晴らしいことだと思う。

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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き