観戦歴1年で考えるF1の魅力 -サッカーファンの日本グランプリ観戦記-

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F1日本グランプリの観戦で、鈴鹿サーキットに行ってきた。

F1を生で観るのは、今回が2回目。モータースポーツ業界で働く友人から「チケットあるけど、来る?」と誘われて、「世界的なスポーツだし、人生経験として1回くらいは観ておくか」と、軽い気持ちで三重県に向かったのが2022年。

昨年の日本GPに関して記憶に残っているのは、土砂降りの雨に打たれながら、1台も車が走っていないコースを見つめ続けた数時間。

“悪天候だとレースは開催されない”

私が最初に覚えたF1のルールである。濡れるスニーカー。ぬかるむ地面。泣き出す幼子。疲労感を滲ませる両親……地獄絵図とは、多分ああいう状況のことを差すのだろう。

ただ、そんな辛い経験をしてもなお、2年連続でF1を現地で観たいと思った。

基本情報をインプットして数レース観戦すれば、F1が素晴らしいスポーツであることを、理解するのに時間はかからなかった。日本GP以降、すべてのレース(決勝)をリアルタイムで観戦した。

NETFLIX「栄光のグランプリ」で過去5年の歴史を学び、DAZN「WEDNESDAY F1 TIME」でレースの駆け引きを覚え、漫画「Capeta」でドライバー育成のリアルを知った。

気が付けば「ギュンターって顔は恐いけど、性格は可愛いよね」くらいの発言ができるF1ファンには仕上がった。ファン歴1年を迎えた節目として、今感じているF1の魅力を記事として残しておく。

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2023年9月8日

ブーイングが起きない

今年の日本GPは、フリー走行~予選~決勝と続いた3日間で、約22万2000人の来場があったらしい。

スポーツファンのエンゲージメントは、“現場”で高められるところが大きいと思っている。基本的には年に1回しか生観戦できない(日本開催されない)スポーツが、アクセス面でも恵まれているのは言えない鈴鹿で、ここまでの集客力を発揮するのは本当に凄い。家族連れが多く、子供も楽しんでいる姿からは、長いスパンでF1人気が続く(続いている)ことが伺い知れた。

その人気を支えるベースとして、参加した全チームが母国GPのように感じてもらえるのではないかと思うほど、会場全体がウエルカムな雰囲気であったことは印象に残っている。明らかに客層が良く、高額なチケット代(ちなみに、私の席は¥34,000)によるセグメントも効いていたのかもしれない。

観客からは何の隔てもなく、全チームに拍手が送られる。サッカーに慣れ親しんでる身としては、スポーツ会場でブーイングが起きないことに驚きを覚える。公式パンフレット情報によると「日本のファンは独特」とのことなので、世界のF1ファンに誇れる鈴鹿サーキット特有の雰囲気なのだろう(会場内の備品を盗む人もいたけど……)。

20万人以上が来場した鈴鹿サーキット

物語が多い

F1がコンテンツとして優れていると感じるのは、全チームの物語をしっかりと紹介している点にある。既述のNETFLIX「栄光のグランプリ」はその典型で、上位を争うチーム以外も目標があり、そこに挑戦するドラマが、各メディアを通じて詳細に報じられる。10位で大喜びしているスポーツがF1なのだ。

そして、その様子を上位チームのファンが馬鹿にしているような言動がない。推しチーム別にコミュニティが分裂しておらず、(大きな括りとしての)「F1ファン」という自覚が前提としてあり、競争と共存が両立しているような世界だと感じる。他者を批判することで、自分の考えを肯定するのが当たり前のような時代で、その優しさが身に染みる。

事実、日本GPで隣に座っていたおじさん(私がレースの状況を把握できていない時は、小声で教えてくれた)は予選はレッドブル、決勝はアストンマーティンのウェアを着ていた。周りの観客は上位、中位、下位すべてのオーバーテイクに興奮し、声援を送っていた。

遊びの4類型

F1の魅力を挙げていくとキリがないのだが、個人的に一番好きなのは「儚さ」である。

予算、人材、機材……スポーツ界でも最高峰のリソースを投資して勝負しているにも関わらず、例えば、雨が降り出すタイミング1つで勝敗が大きく左右される「運」の要素に惹かれる。

自然による不自由を取り込んでいるのは、実にスポーツ的だと思うし、最先端技術の結晶であるF1カーが、小雨でクルクル滑って使い物にならなくなる様子には、緊張と興奮が混じった、何ともいえない感情になる。

長年のF1ファンはどんなところに魅力を感じているのかとSNSを探っていると、あることに気が付いた。有名なロジェ・カイヨワが定義した「遊び(≒スポーツ)の4類型」を、F1は高水準で満たしているのだ。

「アゴン(競争)」:分かりやすく、抜きつ抜かつが行われている。

「ミミクリ(真似・模倣)」:上位チームの車の形状を、他チームが真似して速くなることが起きる。他チームからの人材の引き抜きもある。

「アレア(運・賭け)」:雨やセーフティーカーのタイミングで勝敗が大きく左右される。ピットインのタイミングはイチかバチかの要素も。

「イリンクス(目眩/スリル)」:定期的にクラッシュが起きる。車が速すぎるので危険。

先進性を感じさせるF1が、遊びの本質的(原始的)な要素を色濃く残しているのは、興味深くあるとともに、世界中の人から支持されている潜在的な要因の1つではないだろうか。

今回の座席。目の前で起きたサージェントのクラッシュは、トラウマレベルの衝撃

心のオアシス

最後に個人的なことを少し。

私は自他共に認める「にわかF1ファン」だ。ゆえにF1に関して、他者からの承認欲求がまるでない。知識が圧倒的に足りないので、批評欲も湧かない。コンテンツに対して、純粋な消費者でいられる心地良さがある。

サッカーに関しては、違う。Jリーグは開幕からずっと見ているので、ある程度の知識があるし、批評欲も人並みにある。自分の意見に対しては、批判もされるし、他者からの共感を欲してしまう時もある。あらゆる面で、もう無自覚ではいられない。

SNSが普及した時代、相互評価のサークルから抜け出すことは安易ではない。私にとってのサッカーに近いものを、多くの人も持っているはずだ。

「心のオアシス」……は大袈裟かもしれないが、F1という新しい趣味は、何も考えずに楽しめるという意味で、私の生活に貴重な時間を提供してくれるものになった。

だから、F1について長文を書くのは、この記事が最初で最後になると思う。レースの感想は「あ~!楽しかった」で十分だ。

私のF1ライフを充実したものにしてくれた、全ての関係者に感謝。来年の春も鈴鹿サーキットに行くぞ!

鈴鹿サーキットで大量購入したF1グッズ

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2018年4月13日
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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き