本の帯に書かれたコピーは「100人中最下位だった僕がサッカー日本代表になれた理由」。
著者である橋本英郎さんは自身を“(才能を)持たざる者”として位置づけた上で、そうした人間が生存競争を生き抜くための思考法を11の「THINK」(章)で紹介している。
既述のコピーは著者が中学生時代の立場を自己分析して書かれたものだが……読み終わった結論を先に書くと、橋本さんは“持たざる者”ではない。
確かにサッカー選手として誰にでも把握できる能力(空中戦が強い、足が速い、シュートが上手い……etc.)はトップレベルではなかったのかもしれない。ただ、『思考力』という点においては(ずっと)一流だったと推測できるエピソードが続々と登場する。
例えば、出場した試合を映像で振り返るのが苦手である理由として『失敗したプレーは鮮明に脳裏に焼き付いている』『(映像を観ない代わりに)瞬間で自分のプレーを客観視していた』といった「そ、そんなことできるの?」といった自覚なき才能の記述は読みどころの1つ。
そして、そうした思考力は天賦の才ではなく、習慣や意識付けで誰でも身に付けることができる……というのが本書の趣旨。
飾らず、驕らず、等身大の言葉で綴られた文章からは、橋本さんがスター選手であったことを忘れて、親戚のお兄ちゃんからアドバイスをもらっているような身近さを覚える読後感があった。
サッカー本というよりも、サッカー好きのための思考術(自己啓発)本。今置かれている環境に物足りなさを感じていたり、今後のキャリアの歩き方を迷っているサポーターにとってのヒントが詰まっている。
書籍概要
書籍名:1%の才能
著者:橋本英郎
発行:エクスナレッジ
価格:1,500円
詳細はこちら
※本書の編集者を務めた森哲也さんのインタビュー記事はこちら↓
器用貧乏ではなく“ポリバレント”
ガンバサポーターブログの書評記事なので、サッカー文脈での読みどころも少し。
誰にでも把握できる能力は高くなかった橋本選手は、思考能力の高さを活かすために「ポジショニング」や「コーチング」の能力を高めてチームに貢献する道を選択する。ただ、そうした能力は所属クラブとの契約交渉における査定では評価されなかったという。
振り返れば、レジェンドである遠藤保仁選手もキャリアの中盤頃までは「運動量が少ない」「無駄なバックパスが多い」などの批判を受けており、実際の貢献度と評価に差があった時期がある事実は考えさせられる。橋本選手、遠藤選手がチームの査定に納得いかずに移籍を選択していた世界線もあったのかと思うと恐ろしい。
一方で、本書で度々登場するオシムさんをはじめ、橋本選手の能力を理解できる指導者との出会いがあったことは、長い選手キャリアを築けた要因として大きかったことも伺い知れた。器用貧乏ではなく“ポリバレント”……(指導者の)捉え方ひとつで選手の自己肯定感は変わる。
次は橋本“監督”が選手たちを変える番か。
セカンドキャリアを歩み始めた橋本さんには、まず我々サポーターの観戦スキルを書籍や試合中継解説で上げていただいた後に、ガンバ大阪の指導者として戻ってくる時が来れば……そんな未来も想像しながら読むとさらに楽しくなること間違いなし。