「交代が遅いよ……」
押し込まれるガンバを見て、隣席のおじさんが祈るような、少し怒っているような声で呟く。
「分かる」
心の中で同意する。直接会話したことはないが、数年来の年間パス隣人として、おじさんとサッカー観が近いと感じることは多々あった。
どの監督に対しても、采配にネガティブな感情を抱くことはある。ただ、そういう時は相手を否定するのではなく、問いを意識した言葉を使うようにしている。仲間内での会話しかり、SNSしかり。
自分が把握している情報がすべてではない。そんな当たり前のことを前提とするだけで、物事の見え方は変わる。
「交代が遅い!」ではなく「なぜ交代が遅いのか?」。問いかけは、断言よりも相手の理解に繋がる。
正解も、正義も人によって違う。そして、それは時代でも変わる。
「らしさ」の変化
ガンバ大阪が強い。
開幕から2勝1分け。近年、J1残留争いが続いているチームとは思えない充実した内容も伴っている。特に攻撃から守備への切り替えの意識は高く、山田康太選手を中心とした前線の選手達のハードワークは必見。長谷川健太監督体制時に「ファストブレイク(速攻)」が強調されたことはあったが、リアクション色の強かった当時以上に守備の主体性を感じることもワクワクする理由の1つだろうか。
攻撃から守備へ切り替える局面……いわゆるネガティブトランジション(通称・ネガトラ)がフォーカスされること自体が今の時代を表している。強豪ガンバの礎を築いた西野朗監督の「3点取られたら4点取る」「3-0よりも6-3」に代表される攻撃的発言に心躍らせていた頃が懐かしい。
初タイトル、ACL制覇の時代のスタイルであり、クラブスローガンとして抜群の浸透度を見せた『超攻撃』は長らくガンバ大阪の代名詞となった。低迷期に「ガンバらしさ」が議論される際は必ずこのフレーズが出たし、それは同時に当時を知らない世代との分断を生んでいるようにも感じた。
『超攻撃』に囚われ過ぎていたのかもしれない。
西野監督が複数のメディアで公言している通り、あのスタイルは遠藤保仁選手、二川孝広選手に代表される才能ある選手達が同時期に集まった結果論である側面も強い。つまり、クラブのアイデンティティ的に語られることも多い攻撃性は後天的なものである。
時代とともにクラブも変わる。
変化への期待
2021年のガンバ大阪創立30周年を機に発表された「クラブコンセプト」を軸に、ここ数年はガンバ大阪の変化が止まらない。
新マスコット・モフレムの誕生、「GAMBA SONIC」などイベントの新設、ガンバ大阪サッカービジネスアカデミーとの共創、パナソニックスポーツの設立に伴う連携、チョンブリFC&AFCアヤックスとの提携……事例を挙げればキリがないほど新しい挑戦に溢れている。
『超攻撃』時代にノスタルジーを感じないと言えば嘘になる。OB人事に浪漫も感じる。しかし、過去を知らないと楽しめないエンターテイメントなんてカッコ悪い。ガンバ大阪が初優勝を果たした2005年からもうすぐ20年。若いサポーターが「超攻撃なんて知らない」と、堂々と言えるスタジアムがいい。
今シーズンこのまま勝ち続けて、令和のガンバ大阪を表現する新しいアイデンティティフレーズが生まれたら素敵だなと思う。強いは楽しい。勝負の世界。勝つこと、強いことだけはずっと変わらない正義だ。
Photos:おとがみ