スタジアムが表情を変えた。いや、“命が吹き込まれた”と表現した方が適切かもしれない。試合前日に訪れたスタジアムツアーでは「老朽化が進んでるな……」という感想が主であった場所と同じところにいるとは思えなかった。
欧州チャンピオンズリーグ「レアルマドリード-パリ・サンジェルマン」観戦を目的に、スペイン・マドリードを訪問した。試合会場はエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウ。ヨーロッパ遠征で観たかった光景がそこにあった。
スタジアムが生きている
なめていた。この試合の3日前に訪れたカンプノウが、日常の延長線上にあることを感じさせる雰囲気だったこともあり、エスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウも同じようなものだと想像していたのだ。
この考えは、良い方向で裏切られた。思い返せば、試合前から予兆はあった。スタジアム周辺にあるサポーターの溜まり場は、アルコールとゲロが混ざったような匂いが充満しており、明らかに治安が悪かった。グッズを販売するアンオフィシャルな出店には、ウルトラスの文化を感じさせるタオルマフラーが並んでいた。
そして、「バス待ち」で、このスタジアムがカンプノウとは違うことを確信する。こんな大規模のそれは、あまりお目にかかれない。自然発生的にチャントが繰り返される風景は、熱狂そのものだった。
レアルのバス待ち半端ねぇwww #UCL pic.twitter.com/PZu3Ho3Krk
— ロスタイムは7分です。 (@7additionaltime) February 14, 2018
スタジアム入場後も驚きは続く。「ゴール裏で応援するサポーターは少ないんだな」と観客席を見渡していたら、「俺達を見くびるな」とばかり、超ビッグフラッグが掲げられた。そもそも、座席の位置でサポーターの熱量を測ること自体、日本的な考えであることを反省した。どの席で応援しようと、彼らはクラブを愛しているし、誰もが積極的に試合に関与する姿勢を持っているからこそ生み出せるスタジアムの雰囲気は、Jリーグでは味わえないものだった。
試合中、最も印象的だったのは、相手クラブのエース・ネイマールに対するブーイングだ。5.1chサラウンドの映画館にいるような迫力。特にシュミレーションに対する反応が凄まじく、スタジアムで共通の価値観(評価軸)が共有されていることを感じた。それがあるからこその一体感であって、コールリーダーによって先導させるものではない。1つひとつのリアクションが生々しく(人工的ではなく)、スタジアムが感情を持っているようだった。
ガンバ大阪が万博記念競技場を使っていた時代、「歌え万博」という“ゴール裏以外の席でも積極的な応援を促す活動”が行われていたが、この活動の到達点をマドリードで観たような気もした。いつか、この日見た雰囲気を、パナソニックスタジアムでも創り出せる日は来るだろうか。

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