本書で構成を担当されている宇都宮徹壱さんから「ガンバサポには興味深い内容が満載ですよ」と推薦してもらった一冊。ガンバ大阪ユース出身の松本光平選手が主人公。年齢的には同期に安田晃大選手、1つ上の学年に倉田秋選手がいる世代。
トップチームには昇格できていないので、その存在を知らない人も多いと思うが、「2019年のFIFAクラブワールドカップにオセアニアのチームで出場していた日本人選手」と言えば、「あぁ、そんな選手いたねぇ」となる人もいるかもしれない。正直に告白すると、私も松本選手に関しては、それくらいの知識しかなかった。
そんな同選手に関する書籍が発売されたきっかけは「怪我」。トレーニング中に不慮の事故に遭い、右目を失明。しかし、彼は挫けなかった。サッカー選手を続けることを諦めなかった。なぜ、前向きなメンタリティを維持できたのか。
本書では、松本選手の学生時代から今に至るまでのエピソードを通じて、その理由を多角的に深堀りしている。宇都宮さんがプロローグで「ポスト・コロナの時代を生き抜くためのヒント」という言葉を使っているが、松本選手の考え方や行動力は、サッカー選手ではない私にとっても多くの学びがあった。
書籍概要
書籍名:前だけを見る力 -失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由-
著者:松本光平
構成:宇都宮徹壱
発行:KADOKAWA
価格:1,500円
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ガンバとセレッソ、育成方針の違い
ガンバサポーター的には第2章「15歳で禁断の移籍」が読みどころ。冒頭の宇都宮さんの言葉は、この章のことを差していると思われる。
前段落で松本選手をガンバ大阪ユース出身と紹介したが、前所属はなんとセレッソ大阪ジュニアユース。今となってはガンバOB(前監督)である松波正信氏が、セレッソ大阪ユースのコーチを経験するなど人的交流もあるが、当時はまさに“禁断”だったよう。
松本選手が「もっと上を目指したい」と、ガンバユースへの移籍を決意したことで生まれたハレーションエピソードはなかなか強烈。15歳で大人達からの反対(批判)にも負けず、自分の意思を貫く精神力の強さに驚かされる。
ガンバユース加入後の記述で印象的だったのは、ガンバとセレッソの両方を経験しているからこその「比較論」。食事の量や服装などピッチ外の規則が厳しいセレッソ、自主性を重んじるガンバ。ピッチ内ではフィジカルを重視するセレッソ、技術と戦術を重視するガンバ。詳細は本を買って読んで欲しいが、同じ大阪のクラブでも当時は大きく指導方針が違ったことを知れる貴重な回想が多々記載されている。
どちらが正しいという話ではないし、松本選手本人も「両方の育成で学ぶことができたからこそ、今の僕がある」と語っている。
海外での日々
ガンバユースでは日本クラブユースサッカー選手権優勝など、チームとしては結果を残すものの、松本選手個人としてはトップチームへの昇格は叶わなかった。そして、ユース卒業後のキャリアを大学ではなく、海外に求めるという“異端”の道を再度選択する。
第3章以降で紹介されているのは、海外での奮闘や怪我後のストーリー。どの時代の松本選手にも共通しているのは、自分で考え、判断し、努力を惜しまないこと。だからこそ、すべての行動に後悔がない。失明、事故……「松本光平」でグーグル検索をかけるとサジェストにはネガティブなワードが並ぶ。しかし、当の本人はそうした負のイメージとは真逆の存在だ。
大きな怪我をした松本選手の現状を考えれば迂闊なことは書けない。ただ、苦難はあれど、常に全力でベストを尽くす松本選手の生き様は1つの理想のようにも思えた。
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