「争うは本意ならねど」など、サッカー界を対象とした重厚な書籍を発表し続けている木村元彦さん著の一冊。
世間で語られる元大分トリニータ社長・溝畑宏氏のイメージとは違う、意外な一面を知ることができる。多くのサッカーファンにとって溝畑氏のイメージは「ずさんな経営者」だろうが、本書内に登場する関係者の証言によって、必ずしもそうとは言えない側面が見えてくる。どのような取材を行えば書けるのか想像もつかない生々しい(臨場感溢れる)エピソードの数々には何回読んでも興奮させられる。Jリーグクラブのビジネスサイド、スポンサー分野に興味がある方は必読の一冊。
書籍概要
書籍名:社長・溝畑宏の天国と地獄 -大分トリニータの15年-
著者:木村元彦
発行:集英社
価格:1,200円(税別)
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大分トリニータとスポンサー
「天国と地獄」とタイトルが付いているが、基本的には“地獄”が書かれている。この本における地獄が差すのは「クラブの経営難」。対スポンサーを軸とした、経営資金集めでの奮闘記を軸に物語は進む。
政治的な要素が大きかった大分トリニータというクラブの立ち上げ経緯、そうした過去を背景とした地元企業からの反発……クラブを取り巻く環境を知れば知るほど、誰が社長を務めていたとしても、クラブ経営は簡単なミッションではなかったのではないかと思わされる。
読みどころは、経営危機に陥った際にギリギリのタイミングで「朝日ソーラー」「ペイントハウス」「マルハン」といった“救世主”企業のサポートを得られるエピソード。スポンサー企業の社長は人間的に魅力がある方ばかりで、彼らの言葉からはビジネスノウハウ以上に「人としてどう生きるべきか」を教えてもらっているような熱さを感じた。
そうした社長陣に対し、同じ熱量で向き合う溝畑氏。何度か紹介されるスポンサー接待時のエピソードは、コンプライアンスが厳しい現在であれば許されないであろう内容ばかり。ただ、無茶ができることも含め、溝畑氏にも人間的に魅力があったからこそ、救いの手を差し伸べる方が現れたのも事実なのだろう。
前述した企業名を見て、思うところがあった方もいるだろう。各企業(の社長)がスポンサードを決めた背景にも物語があり、そこまで丁寧に取材執筆されている点も作品に深みを与えている。
ご存じの通り、スポンサー企業の経営不振、「フォーリーフマジ勘弁でチュ事件」などが引き金となり、溝畑トリニータは悲しい結末を迎えることになる。筆者の木村氏は、このような結果に至った原因について、溝畑氏の手腕以外の部分も含めて考察している。冒頭に書いた世間の一般的な認識とは違う部分も多いはずなので、関心のある方は読んでみて欲しい。
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