先日参加した講演会で、フットサル日本代表監督のブルーノ・ガルシア氏はパフォーマンスの定義を「タレント×モチベーション」と語っていた。特に「モチベーション」を重要視しており、タレントの差はモチベーションでカバーできると強調していたことが強く記憶に残っている。
一方で、その重要視している「モチベーション」をどのようにマネジメントするかについては語られなかった。「フットサルに人生を捧げている選手が私のチームには必要だ」「時には狂気的な野心が求められる」と、ブルーノ氏から強い言葉を聞けば聞くほど「そのモチベーション(野心)を持っていること自体がもはやタレントではないか?」という感想を持ったことも事実である。
その懸念へのアンサーとして、先日取材させていただいた小井土正亮監督(元ガンバ大阪アシスタントコーチで、現在は筑波大学蹴球部監督)のチームマネジメント術は興味深い。
「一人一役」という筑波大学蹴球部の伝統をブラッシュアップさせる形で150名以上が在籍する組織体制を整理。「プロモーションチーム」「パフォーマンス局」など、12のセクションを設け、更に各セクション内でも「ファンクラブ担当」「ビデオエディット担当」と役割を細分化している。部員全員に明確な担当を持たせることで、大人数が所属する組織のパワーをチームに反映できると共に、試合への出場機会がない選手もチームへの貢献を実感できるという仕組みだ。
経験則的には、チーム(モチベーション)マネジメントの肝は“相手に信頼を示す”ことだと考えている。責任あるミッションを任せることで、相手はその決断を粋に感じ、任せてくれた相手や組織のために貢献する意識が芽生える。やらされている意識がないので言動には自主性(オリジナリティ)が伴い、組織に多様性を与える。そもそも監督を意味する「COACH(コーチ)」は四輪馬車が語源。つまり、乗客を目的地まで運ぶのが役割であり、運転手が目的地を決めることはできないのである。個人の成長という観点でも担当制は有意義なマネジメントであり、筑波大学蹴球部の組織体制からは、小井土監督がチームが勝つこと以外の部分も重視する“教育者”としての顔も感じさせる。
2つのアプローチ
ここからはガンバ大阪の話。
チームマネジメント術に関しては大きく2つのアプローチが議論されることが多い。自主性を促すアプローチを「コーチング」、戦術の実践を求めるアプローチを「ティーチング」と定義する場合、歴代のガンバ大阪監督には両方のタイプが存在する。(極端に優秀な選手が揃っていたという理由もあるだろうが)西野監督は前者のマネジメントをしていたし、どのチームでもしっかりとした守備組織を整備する長谷川監督は後者のタイプになる。クルピ監督は前者だと思うが、正直よく分からない。
では、宮本恒靖監督はどうか。
選手のコメントから推測するに、スクランブル登板した2018シーズンは“無”(クルピ監督時代の借金)であったピッチ上の規律を「ティーチング」で整理するアプローチだった。残留のためにはその選択肢しかなかったともいえる。では、準備する時間を与えられた今シーズンのマネジメントは……。
小井土監督は筑波大学蹴球部の自主性を尊重するマネジメントについて「自分で考えることができる筑波大学の学生に対してだからこそできること」と語る。ガンバで成功した西野監督のマネジメントが、名古屋グランパスやヴィッセル神戸では成功しなかったように、チームとの相性は存在し、正解がある類のものでもない。近年は主流派になりつつあるように感じる「コーチング」が必ずしも正しいとは言い切れない。
昨シーズンの結果を宮本監督がどのように捉え、選手達に働きかけていくのか。今シーズンもメディア情報の行間を読みながらチームマネジメント術に注目したい。

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