そして、賽は投げられた -ガンバ大阪31年目のリスタート-

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「何がしたいか分からない」
「勝った理由が分からない」

昨年、スタジアムから帰る道で何度この台詞をサポーター仲間から聞いただろうか。勝っても愚痴が出るあたり、ストレスが相当溜まっていたのかもしれない。評価する側の勉強不足はあるが、確かに昨シーズンのガンバは「運動量」「球際」「切り替え」といったベースとなる部分以外の共通認識が見えにくいチームではあった。

新型コロナウイルス感染者発生による活動休止および、過密日程の影響はあったとはいえ、シーズン終盤に「引いて守る」スタイルしか選択肢がないチーム状況を私も憂いた。浪漫を感じないサッカーだった。

過去を振り返ると、ガンバが低迷する時には組織マネジメントが効いていないという共通点がある。セホーン・ロペス時代は「二頭体制の混乱」、クルピ時代は「自由の持て余しが原因としてよく語られている。

宮本(松波)監督時代をどのように解釈するかは難しいところだが、片野坂監督が「戦術共有を徹底するところは、改善の余地がある」(スポーツ報知)とコメントを残している通り、まずはチームとして共通意識を持つことがチーム再建にむけた最初のステップとなる。

新しいことに挑戦するからには、開幕戦の2失点目のような犠牲は付きもの。ブレなくやり続けることが大切になる中で、片野坂監督の求心力が高い点はポジティブな要素だ。

今シーズン初勝利をあげた第2節レッズ戦では、劣勢展開にも勝利を信じ、ピッチにむかって選手を鼓舞し続ける同監督の声はチームの士気を上げたはず。「片さんのために勝ちたい」という想い。その影響はピッチ上だけならず、ゴール裏にも及んでいる。私自身、ベンチで戦う指揮官の姿に何度勇気をもらったことか。

無論、楽観はできない。リカルド監督の下、昨シーズンからの積み重ねがあるレッズとの対戦で突きつけられたのは、チーム完成度の差。勝敗はともかく、次節の川崎フロンターレ戦でも同様の現実を痛感することになるのだろう。数か月では埋められない差があることは認めざるを得ない。

一方で、ハーフタイムの修正力、先手を打つ交代策、ベンチに座るスタッフの一体感など、昨シーズンにはなかったガンバの武器も見え始めている。

だから今はポジティブな部分に目を向けて、未来に期待している。既に存在感を示しつつある石毛選手・中村選手ら新戦力のさらなるフィット、レッズ戦で開通の兆しを見せた山本選手-山見選手の“関学ホットライン”、未合流の新外国籍選手達がもたらす効果も楽しみ。

昨シーズンは度重なる完敗に心を乱さない程度には悟りを開いたが、新監督就任やシーズン初勝利で煩悩を取り戻した。依然としてスタジアムで声を出すことはできないが、チームの成長を信じて今シーズンも応援し続けるつもりだ。

中島みゆきの名曲「時代」から考える。ガンバ大阪2022シーズンプレビュー

2022年2月17日

「BE THE HEAT , BE THE HEART」時代のスタート

視点をビジネスサイドに向けると、こちらも2022シーズンから新たなスタートを切っている。「BE THE HEAT , BE THE HEART」をスローガンに“サッカーのフィールドに留まらず、新たな体験を創出する”演出をパナソニックスタジアムの各所で見ることができた。

スタジアム内外に装飾された新ロゴ&スローガン

コロナ禍のクラブ経営は厳しく、開幕戦の観客数も11,800人と伸び悩んだ。この数字からも明らかな通り、従来の発想では成長を望むことはできず、大きく舵を切る判断は納得感のあるもの。賛否両論呼んだエンブレムの刷新も、UNITED ARROWSとのコラボレーションしたアパレルを発売した頃から風向きがポジティブな方に変化しつつあるように感じる。

スタジアム内に展示された新エンブレムグッズ

こうした取り組みもピッチ上と同じく、関係者の捉え方がバラバラだと成功は難しい。皆、色々思うところはあるだろうが、クラブが決断して動き出した以上、少しでも支持者が増えることを願っている。私も支援の意味を込めて、身の周りのガンバグッズを新ロゴver.に買い替え始めている。

最後に、今回のリブランディング(クラブコンセプト)も、片野坂ガンバ体制も、歴史の否定ではない。現在も未来も、過去から延長線上にしか存在しない。新しいスタートを切ったタイミングだからこそ、これまでガンバを支えてきた方々へのリスペクトを忘れずに、未来の成功を期待したい。

Photos:おとがみ

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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き