断ち切れなかった悪循環 -片野坂知宏監督の契約解除をうけて-

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どこで歯車が狂ってしまったのだろう。

2022年8月17日、ガンバ大阪から片野坂知宏監督との契約を解除したことが発表された。シーズン前の期待感が高かったこともあり、この結末をとても残念に受け止めている。選手インタビューからは求心力の高さを感じたし、フロントサイドが「人間性や指導法を評価」している旨の報道もあった。サポーターも含め、多くの人から愛された監督だったのは間違いない。

片野坂体制を振り返った際、印象に残っているのは第4節ジュビロ磐田戦(A)だ。後半、ベンチの選手達が一体感をもってチームを応援する姿に「このチームは強くなる」と信じて疑わなかった。選手交代で戦況を変える采配も含めて、片野坂ガンバには大きな伸びしろを感じた。

それから5か月。待っていたのは契約解除という未来だった。

試合前後にメディア対応する片野坂監督の表情からは生気が消え、ピッチに目を向ければ失点に項垂れる選手達の姿。コロナ禍ではサポーターの声援でバックアップもできず、手詰まり感が漂うスタジアム。リバウンドメンタリティを失いつつあるチームに刺激が必要だったのは明らかで、監督交代は仕方ない判断だと思う。

戦術、選手起用、怪我人、コロナ……片野坂ガンバが低迷した原因は様々な角度から考えることができるし、複合的なものだろう。そうした中で1つ挙げるならば「勝負弱さ」だ。後半ATを含む、試合終盤の失点数の多さは見逃せない。

誰かを批判したい意図はないので、対象シーンについての細かい言及は避ける。悔しいのは、選手のコメントを見聞きすると、勝ちたい思いが裏目に出てしまった(判断ミスを招いた)失点が多かったということ。焦りがミスを生み、敗戦が自信を失わせた。悪循環を断ち切れないまま、残り10試合を降格圏で迎えることになった。

勝負の世界では御法度だろうが「どれか1つでも試合終盤の失点を防げていれば……」とタラレバを考えてしまうのはサポーターの性か。

そして、賽は投げられた -ガンバ大阪31年目のリスタート-

2022年2月27日

基準なき評価

松田浩コーチの監督昇格という形で残りのシーズンを戦うガンバ大阪。クラブ主導でオファーを出したという松田氏に期待することは何か。これまでの実績をふまえた「守備戦術の整備」だとすれば、それは今シーズン限定のものなのか、それとも来シーズン以降も見据えたものなのか。

個人的には、監督交代のタイミングで毎回テーマとしてきた「ガンバらしさ」について考えるのはもう止めようと思っている。西野朗監督(黄金期)の呪縛を背景とする“自分探しの旅”は遭難決着以外の未来を想像できない。

スケープゴート -ガンバらしさを失った原因は本当に長谷川健太監督にあるのか-

2017年10月29日

「ガンバらしさ」の模索 -宮本恒靖監督の契約解除をうけて-

2021年5月17日

今回の契約解除に関する一連の報道でも「目指すサッカー」という言葉を見かける。一方で「目指すサッカー」ではなかったであろう片野坂監督の“リアクションサッカー”を小野忠史社長が認める発言も見られる。

クラブから目指すサッカーの具体(ゲームモデル)の提示がないがゆえに、サポーター間で共有できる評価基準がなく、今回の片野坂監督解任に関しても、噛み合わない論点での賛否両論が飛び交っている現状がある。多様な意見が出るのはサッカーの醍醐味の1つではあるが、無用な言い争いで一体感が損なわれているのは勿体ない。

今年は「J1残留」が最優先。それを実現できるのであれば、手段は選ばないという状況であることは理解している。もし来シーズンもJ1で戦うことができるのであれば、クラブにはビジネス面先行だった2022年を一段落させて、サッカーに関する未来像も詳しく語って欲しいと思っている。

Photo:おとがみ

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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き