共感なき半年間を越えて -宮本恒靖監督就任の意味-

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今となっては、なぜこんなリスクを冒したのだろうと思う。

清水戦後、サポーターのクルピ評として「スパイ」の文字がネット上に並んだ。結局、最後まで“ガンバの監督”にはなれなかった。距離的には近くとも心理的には最も遠いセレッソ大阪の元監督にオファーをしたのは明らかに一線を越える選択だった。実際、就任前から一部(コア)サポーターは「パナソニック100周年に相応しくない」などの反対する声をあげていた。さらに1.7億円とも報じられる高額の年俸(解任時の違約金)。ハイリスク・ローリターン。後悔先立たず。結果が出なかった時のダメージを考えると到底できない判断なのだが、前任者のつまらなすぎるサッカーへの危機感から焦りもあったのかもしれない。一か八かの勝負に出て、負けた。惨敗。

「結果と内容」の両立を目指してオファーしたクルピであったが、サポーターの共感や支持を得られるのは結果と「過程」ではないだろうか。要は“ストーリー”を売っている。そこにサポーターは想いを重ねる。クラブがクルピで描いた理想は「セレッソで成功しました。その後、ガンバでも成功しました」。一か八かと書いたが、結果を出したとしても共感や支持は小さかったと思う。なぜならガンバサポーターはそのストーリーでは夢を見られないから。そして、現実は「セレッソでは成功しました。その後、ガンバでは失敗しました。高い違約金も払いました」。地獄である。この半年間は負の歴史として記憶される。

自由なんていらない -クルピ流チームマネジメントについて-

2018年4月30日

レジェンド・宮本恒靖、監督就任

そして、宮本恒靖氏の監督就任リリース。久しぶりに体が震えた。「遂にこの時が来た」という感動、「全力でサポートしなければならない」という決意、「絶対に失敗はできない」という危機感……あらゆる感情の急激な高まりを抑えきれない。きっとこんな気持ちはこの先「遠藤保仁引退」までないだろう。ガンバ大阪にとってツネ様が監督に就任するのは特別な意味を持つ。切り札にして、背水の陣。未来を賭けた大勝負である。

クラブはツネ様の監督就任を慎重に考えると思っていた。サポーターも時期尚早と考える方が多数派だったからこそ、新監督は手倉森誠氏か実好礼忠ユース監督が有力という報道も納得感をもって受け入れられていた。我々には松波正信元監督の苦い経験があり、レジェンドをスクランブル登板させることにアレルギーを持っている。あの反省を活かせば「今ではない」と判断するのが妥当だ。

しかし、監督になったのは宮本恒靖氏だった。他に選択肢がなかったという可能性はある。5時間を越えたという話し合いの末に監督就任のリリースに至ったという経緯から察するに、本人もかなり葛藤があったことが伺い知れる。それでも引き受けた事実。あとは我々サポーターがどう受け止め、アクションするかだ。

宮本恒靖新監督

ガンバサポーターが最も夢を託せる存在。それがツネ様である。ユース1期生にして元ガンバ大阪キャプテン。2005年Jリーグ初優勝での歓喜も、優勝で海外移籍を送り出せなかった天皇杯決勝の悔しさも、あらゆる思い出が昨日のことのように鮮明に甦ってくる。長らくガンバ大阪の代名詞であったツネ様。

引退後、FIFAマスターに入学した際は、もう1クラブに収まる存在ではなくなったのだと思っていたので、ガンバに戻ってきてくれた時は本当に嬉しかった。大切な存在だからこそ丁寧なキャリアを歩んで欲しい想いもあったが、ガンバの危機にリスクある決断をしてくれたことを全力で支持しようと思う。絶対、孤独にはしない。松波さんの悲劇を繰り返してはいけない。サポーターとしてできうる限りの応援を誓う。

2005年ガンバリーグ優勝時のスポーツ新聞。ツネはガンバの顔だった

宮本監督に期待すること

奇しくも我々は直近、日本代表で同じような事態を目撃している。西野朗ジャパンから学ぶとすれば「前任者との違い」を強調するマネジメントがチームにとって劇薬になるはずだ。ガンバファミリーなどの選手コメントからクルピが「自由主義」であったのは明らかなので、ある程度の型を決めた上で自由を与える戦い方になるのではないか。地道に勝ち点を拾わざるを得ない状況なので守備重視になるのもやむなしだろう。

そして、純粋な競争があって欲しい。戦える選手を起用するのみ。クルピ時代に不遇を味わい、その間J3でツネと共に戦った矢島選手、泉澤選手を放出してしまっているのは痛いが、井出選手や市丸選手、一美選手、高選手など若手選手達の逆襲にも期待したい。

強化部にとってはラストチャンス。時間はないが、宮本監督が望む戦力を少しでも整える必要がある。今夏に抜けることが決まっているウィジョの穴を埋めるFWか、中盤の守備力を高めるボランチか。2012年と違って底力(ポテンシャル)を感じないチームなので、J2降格はクラブの致命傷になりかねないという危機感がある。絶対残留。クラブの未来をかけた4か月間が始まる。

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2 件のコメント

  • 本当に宮本氏に対する思いや期待は完全に共感できます。
    結果がどうなろうが、この苦しい時期にキャリアに傷がつくリスクもおして火中の栗を拾ってくれたレジェンドを全力で応援します。

  • ヤバイです。泣きました。
    引き受けてくれた宮本監督に絶対恥をかかせるわけにはいかないです!
    全力でサポートします。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き