ガンバボーイの活動自粛。そして、サポーターによる問題行動の背景にあるもの

メディア寄稿実績

綾波レイが笑顔を見せたのは、碇シンジに「笑えばいいと思うよ」と言葉をかけられたからであるように、人の行動は他者からの期待を動機とすることが多い。

例えば、満員電車は「他人に無関心」という社会からの期待(暗黙の了解)に乗客が応える形で成立しているし、見たいと思う人がいるからこそ、箱根駅伝の沿道には毎年フリーザ様が君臨する(コロナ禍の2021年には現れなかったことも然り)。行動の主体が他者を意識している以上、受け手となる他者もその行動の一端を担っている。

2021スローガン『TOGETHER as ONE』

こんなことを書いたのは、2021年ガンバ大阪のスローガン『TOGETHER as ONE』が他者……主にサポーターの期待を強く意識しているように感じたからだ。近年、スタジアムで大切に歌われているチャント「WE ARE WITH YOU」からも分かる通り、一体感を感じさせる言葉はサポーターの大好物である。

今年のスローガンが『TOGETHER as ONE』に決定した経緯は下記のように説明されている。

選手、スタッフはもちろん、スポンサーの皆様、ファン・サポーターの皆様、ホームタウンの皆様、ガンバに関わる全ての皆様との思いを1つにしてシーズンを戦い、そしてその先に見えてくるもの、1位をつかみ取るという思いを込めています

クラブはサポーターの期待を理解している。

過去のスローガンにも同様の傾向を見ることができる。昨年(2000年)のスローガン『GAMBAISM』は「ボールを保持しながら相手を圧倒し、アグレッシブにゴールを奪う」ことであると説明されているが、これは2005年~2010年頃の“ガンバ大阪黄金期”のサッカーと重なる部分があり、多くのサポーターが期待するスタイルでもある。

前述の一文を再掲する。「行動の主体が他者(社会)を意識する以上、受け手となる他者もその行動の一端を担っている」……つまり、クラブがスローガンを決定しているようで、実は我々(サポーター)の思想が大きく影響しているのだ。

「ガンバらしさ」の模索 -宮本恒靖監督の契約解除をうけて-

2021年5月17日

ガンバボーイはSNSで好きなことを呟けない!?

ガンバ大阪関連で、他者からの期待によって行動変容された事例を1つ挙げたい。「ガンバボーイツイッター事件」である。

上記ツイート前に至る経緯についての説明は割愛するが、端的に言えば“キャラ違い”のツイートが投稿された。それをガンバボーイは反省している。

実際、私も当該ツイートを最初に目にした時は「なにこれ?」とは思った。その違和感は嫌悪感ではなかったし、マスコットが持論(思想)を持つこと自体を悪だとも思わない。ただ事実として、そのツイートをガンバボーイが反省し、その後沈黙を続ける状況になっているのは、他者(会社やサポーター)からの期待とは違う行動だったからに他ならない。

ガンバボーイ、Twitter再開待ってるよ

サポーターの問題行動は誰からの期待か?

他者からの期待によって行動しているという意味では、「サポーター」はその典型的な存在かもしれない。1993年のJリーグ開幕に合わせて誕生した「サポーター」という言葉によって、サッカー観戦者は“観る人”から“参加する人”に変わった。サポーターは当事者として、主体的にスタジアムで応援している。社会からそういう存在だと認識されている。

一方で、サポーターは他者の期待とは違う(問題)行動を度々起こす。記憶に新しいのは、昨シーズンの横浜FC-ガンバ大阪戦@ニッパツにおいて、再三の注意アナウンスにも関わらず、ルール違反である「座席から立ちあがっての応援」を続けたガンバ大阪サポーターの行動もそれに該当する。

そうした問題行動は誰からの期待によるものなのか。なぜ、それが起きるのか。

それは、問題行動を起こしたサポーターが、他者(外の世界)を見ていないからではないか。自分が所属するコミュニティ(サポーターグループ)内だけの期待で行動しているように見える。アタランタをモデルとした、荒っぽい応援スタイルを理想とするコミュニティの考えと、社会常識にズレがあることに起因する問題行動だと捉えている。

【ドルトムント遠征記】イタリアのガンバ大阪 -アタランタのサポーター軍団に出会って-

2018年3月20日

スタジアムは非日常の世界ではない。スタジアム内でも暴力は犯罪であり、差別発言は絶対に許されない。そして、コロナ禍では観戦ルールの順守が求められる。理想とする応援スタイルと、社会常識の間でバランスを取って応援すべきなのだが、コミュニティ内ばかりを意識すると、外(社会からの期待)が見えなくなってしまうリスクがある。スタジアム内だけに限らず、会社や家庭でも同じような問題は時々起きる。

「ゴール裏(スタジアム)が生活の中心」という人生は楽しい。私自身、サッカーが生活を豊かにしてくれたのは紛れもない事実だ。ただ、大切にしたいものだからこそ、(自戒も込めて)外からの目線には敏感になりたい。コロナ禍では平常時以上に、社会からサッカー界に対する目線が向けられていることを忘れてはいけない。それを肝に銘じて2021シーズンを迎えようと思う。

Photos:おとがみ

Digiprove sealCopyright protected by Digiprove
人気記事紹介

1 個のコメント

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    ABOUTこの記事をかいた人

    1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き