第三者目線の価値 -サッカー界のフェイクニュースを入口として-

メディア寄稿実績

先日、FLASHが報じて話題になった記事『『d払い』CMのマンボダンスに「嫌いになりそう」と苦情殺到』を読んだ際、特に違和感を覚えることはなかった。「あれだけの量が放送されれば、そういう人も出てくるだろうな」くらいに捉えていた矢先、J-CASTニュースがドコモ広報の証言や、いくつかのデータをエビデンスとして、『浜辺美波『d払い』CM、本当にクレーム殺到した?FLASH報道にドコモ広報『「苦情は特段ない』』という記事を発表。矛盾するようだが、この記事に対しても「そうだろうな」と思った。

そこでハッと気づく。なんて自分は無責任にニュースを読んでいるのだと。「メディアに踊らされる」というのは、こういう状態を差すのだろう。自身のメディアリテラシーの低さを痛感せざるをえない出来事だった。

そして、反省と共に思う。

「ドコモ広報の証言は本当か?」

ここまで疑いの姿勢でニュースを読むと、仕事や私生活にも影響が出そうだが、情報過多の時代においてはニュースを鵜呑みにするのではなく、一旦自分のフィルターを通して考える(真偽を疑う)習慣を持つことは大切だ。

「誰のコメントを使うか/どの部分を引用するか」「文章をどのように構成するか」「どの写真を使うか」……何かしらの形で報じ手の主観は必ず入る。100%ピュア(客観的な)なニュースなど存在しないのだから。

ガンバ大阪サポーターがブログを書き続けてきた理由

2018年10月18日

フェイクニュースの見極め方

2021年のシーズンオフ、サッカー界では移籍をテーマとする“フェイクニュース”が話題になった。このジャンルは“飛ばし”が醍醐味のようなところもあるので、フェイクと飛ばしの境目が難しい。移籍報道の確度を記事内で使用される“用語”で判断するテクニックが有名だが、前述した『d払いCM』の件以上に、読む側にリテラシーが求められるジャンルである。

そうした曖昧さを狙ったのかは定かではないが、年々フェイクニュースを目にする機会が増えている。フェイクニュースを発信する人に対して、「情報源(ソース)を言ってみろ」という批判をよく目にするが、大手メディアにおいても、情報源をオープンにした移籍報道は少なく、読み手としてフェイクと決めつけるには根拠が乏しいことにいつも悩まされる。直感的に「これは嘘」とは見抜けるのだが(結果的にもその直感はほぼ正しい)、その直感はどこから来ているのだろうか。

その要素の1つが「人」である。つまり、何を言っているか以上に、誰が言っているかを重視して情報を得ている。「知らない人にはついていっちゃダメ」という子供の頃から受けた教育が、フェイクニュースを見抜く上でも影響を与えているのかもしれない。フェイクニュースに騙されないためには、信用できるアカウントやメディアを見つけることが大切という考え方である。

一方で信用(実績)のない人間が発する情報が、必ずしもフェイクではないように、信用していた人やメディアが発信する情報が、常に正しい訳でもない事実も存在する。誤報とフェイクニュースは別物として考えるべきではあるが、情報の取捨選択(見極め)の難易度が年々上がっていることを痛感している。

「嫌われてもいいから、できるだけ真っ向勝負をやりたい」――『サッカー批評』&『フットボール批評』元編集長・森哲也さんインタビュー

2023年8月29日

群雄割拠のサッカーコンテンツ

そんなフェイクニュース時代に、「選手本人(公式)」による情報発信の存在感が大きくなっているのは自然なことだ。コロナ禍で第三者取材の機会も減っている昨今、貴重な情報収集源となっている。フェイクニュースを掴まされるリスク減という視点でも意味がある。

公式YouTubeチャンネルが好評の宇佐美選手

ただ、読者の立場からは物足りなさも感じている。学生時代から教科書より『サッカーダイジェスト』や『Number』『(旧)サッカー批評』を読んで育った私としては、第三者(+本人)の視点で紡がれる物語が好きなのだ。自身の学びとしてきた尊敬するライターも多い。

選手や関係者本人も気が付いていない視点や解釈を、第三者(記者)によって引き出されているコンテンツの価値は、誰でも情報を発信できる今だからこそ高いのではないか。歴代のサッカーライターが継いできたメディア文化が絶えて欲しくないと切に思う。

本来「選手本人(公式)」発信による情報よりも、第三者の取材(目線)による記事の方が純度は下がるが、精度は高いのではないのか(論文でいう査読の役割)とも思う。しかし、書き手の主観が強く入りすぎたり、より刺激的なタイトル・内容を求められる環境・状況などによって生じた情報の歪みの蓄積が、昨今のマスコミ嫌いや信頼度の低下につながっているのだとすれば、とても残念なことだ。素晴らしい取材で面白い“第三者”コンテンツはたくさんある。

コロナ禍で各Jリーグクラブも(新しいマネタイズやエンゲージメント向上の手段として)デジタルコンテンツに力を入れている以上、急速にクラブ公式発コンテンツのクオリティが上がることが予想される。また、第三者視点のコンテンツが好きとは書いたが、選手発信のコンテンツの中には、絶対にメディア(第三者)が真似できない(面白い)ものがあったことも事実。

「情報過多」ではなく「群雄割拠」。多種多様な面白いサッカーコンテンツが切磋琢磨することで、業界全体が盛り上がるのは喜ばしいこと。そして、私もブログなどで情報を発信する人間として、多くのコンテンツから刺激を受け、より高い専門性を身に付けるべく勉強を続け、多様な視点でのアウトプットができるように精進したいと思っている。

フェイクニュースに触れたことで再考した情報発信の在り方や価値について。皆さんはどんなコンテンツが好きですか?

写真:おとがみ

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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き