先日、あるサッカーライターさんとご飯を食べている際に聞いた一言。

「Jクラブの会報誌に寄稿する時は“エモさ”を意識していますね」

曰く、1つのクラブを応援し続ける熱心なサポーターは戦術分析など論理的な記事よりも、人間ドラマなど感情的(エモーショナル)な記事を喜んでくれる傾向にあるそうだ。1人のガンバサポーターとして「確かに……」と深く頷いた。ガンバ大阪に人生を重ねてもう何年が過ぎただろう。スタジアムで起きる物語に心を動かされ続けて生きている。

ガンバ大阪に人生を重ねて -2019シーズン編-

スポーツの語源は「ディス(否定)・ポルト(港)」。仕事から離れることを意味している。つまり、遊びであり、非日常の側面を持っている。だからこそ、“こっちの世界”で求めるものは合理性なんかではない。ポルトでは叶えられない夢を見て、神様すら信じたい。精神の抑圧からの解放。スタジアム内に常識を持ち込むのはナンセンス。遊びだからこそ人生をかけられる。

ただ、その“エモさ”は現実世界で足枷となる時がある。『浪漫と算盤』。“そっちの世界”は浪漫だけでは生きていけない。だからこそ近年は他業界のビジネスで実績を残した人のサッカー界参入が続いている。Jリーグアドバイザーにホリエモンが登用されたり、えとみほ氏の存在感が高まったり、サイバーエージェントがFC町田ゼルビアを買収したり……。

サイバーエージェントが10月11日(金)に開催した「町田ゼルビアのチーム名・エンブレム変更」発表を趣旨とするサポーターミーティングは自分達(サポーター)の世界が急に現実世界に侵されたような印象を受けた。もちろん、つながっていることは知っていたけれど……。

サポーターミーティングは平行線。サポーターはこれまでの物語をエモーショナルに訴え、サイバーエージェントはビジネスメリットを主張した。同じクラブを応援する立場にあるにも関わらず、住む世界が違うことを痛感する時間だった。サイバーエージェントがネガティブ要因として挙げた町田の弱点すら愛するサポーターは経済合理では動かないし、経済は浪花節では動かない。どちらの主張も間違っていない議論があるということ。あの場には2つの正解があった。

こうなると決定権を持たないサポーターの立場は厳しい。そこは合理性の世界なのだ。Jリーグはサポーターにとって“ディス・ポルト”ではないのかもしれない。日常よりシビアな非日常が目の前まで迫っている。

エモさでは経済は動かないのか?

サポーターミーティングでゼルビアサポーターが発した「Jリーグは感動産業」という言葉は今後の論点になりそうな予感がする。「経済は浪花節では動かない」と前述したが、必ずしもそうとも言えないのがサッカー界。

同ミーティングで「覚えにくいクラブ名」として名前を挙げられてしまったVファーレン長崎の社長・高田明氏は「サッカーには夢がある」を連発。長崎という街の歴史や文化を尊重した上で夢、愛、平和を強調し、圧倒的な支持を集めている。エモい。

横浜F・マリノスは沸騰プロジェクトに代表されるように昨今のトレンドでもあるファンベースの考え方を取り入れ、サポーターと未来を共創するアプローチに積極的だ。最近ではサポーターがスポンサーの新商品を考えるミーティングも行っているらしい。エモい。

町田ゼルビアのチーム名&エンブレムの変更はこうした事例の真逆を進む選択で、町田という街の歴史も文化も、サポーターの共感も重要視していない悲しさがある。これまで町田ゼルビアとして紡がれてきた時間や想いに経済的な価値はないのだろうか。

余談だが、このタイミングで同じIT企業で、同じ東京をホームタウンとするヴェルディの主要株主であるアカツキ社CEO塩田元規氏が「合理的に正解を出せる時代は終わった」として感情を重要視する趣旨の本『ハートドリブン』を出版している偶然が面白い。

今後のJリーグにおいて大きな前例となるであろうこの騒動。他サポにとっても他人事ではない。

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1 個のコメント

  • ゼルビア問題に関する記事とかコメントとか色々見ましたが、一番中立的で分かりやすい記事でした。ぜひ色んな方に見ていただきたいです。

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    ガンバ大阪サポーターブロガー。東京在住30代男性。10年間の衛星放送会社勤務を経て、サッカーメディア会社へ。筑波大学大学院スポーツ社会学修士。週末ダイエットフットボーラー。趣味は炭水化物抜きダイエット。好きな食べ物はカレーライスとラーメン。