「アウェイの洗礼」が好きだ。
敵地で待遇差別や嫌がらせを受けたい。できればペットボトルも投げられたい。そうした逆境への反発心から試合に挑む興奮度が高まる。相手の敵対心によって自分が日本人であり、ガンバサポーターであることを実感することができる。明確な敵の存在によってゴール裏に一体感が生まれる。
しかし、現実は「アウェイの“歓迎”」ばかりだ。タクシーに乗れば、運転手からは「うちは弱いから今日は負けるよ」と気を遣われ、飲食店に入れば「遠いところからよく来たねぇ」と地元客以上のサービスを受ける。……物足りない。
おもてなしの国である日本では「アウェイの洗礼」は期待できない以上、海を渡るしか選択肢はなかった。サッカーとナショナリズムは結びつきやすい。特に中国と韓国。反日感情がスタジアムで爆発している映像を報道で何度も見聞きしていた。初めてACLアウェイに遠征する前の興奮は今でも忘れていない。クラブや旅行代理店から届く試合前の煽り(連絡)が最高なのだ。
「危険なのでユニホーム姿では街を歩かないでください」
「応援グッズは事前申請制で現地公安のチェックを受ける事になります」
ワクワクドキドキ。念願の「アウェイの洗礼」は目前……そのはずだった。
「コレ、ニホンゴノメニュー」
カタコトの日本語で私に話かけてくるのは、韓国の飲食店店員だ。異国で勝手が分からない私達をフォローするため、頻繁に席に来て世話をしてくれた。
中国のスタジアムでは多数の警備員に囲まれながらの応援となった。傍から見れば物々しいのだが、実態としてはカメラを向けるとピースサインで応えてくれるようなフレンドリーな側面もあった。
ナショナリズムとは何なのか。反日感情とは何なのか。海外にも「アウェイの洗礼」には存在しなかった。それぞれの国に対する先入観を恥じた。彼らが日本に来る時があれば、最高の「アウェイの“歓迎”」を提供しよう。
数年前、日本代表の試合が行われた韓国のスタジアムで「安重根」や「李舜臣」の横断幕が掲げられたことは、日本で大々的に報じられた。その影響もあり「韓国=反日」の印象がサポーターには強く残っているかもしれない。ただ、日本で旭日旗を振るサポーターがマイノリティであるように、1つの事件や報道でその国や地域を捉えるのは相手を理解する上で危険だ。
「アウェイの“洗礼”」を経験するのは難しい。けど、それでいい。
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