“負けてはいけない試合”に負けた時 -大阪ダービー2022-

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試合前、倉田秋選手が「今年のターニングポイントになる」と発言した通り、今回の大阪ダービーは負けてはいけない試合だった。それはパナスタでガンバを応援する多くの人も理解していた。

だからこそ、2019年以来となる、入場者数に制限がない中で開催されたパナスタでのダービーは、声援を送れない状況下でも“あの雰囲気に近いものになった。

給水タイムで試合が中断される前半20分過ぎまで相手を圧倒する展開になったのは、サポーターの熱量がもたらした影響も大きかったと思う。

サポーターの気持ちがこもった手拍子が響き渡るスタジアム。その音に背中を押される形で前への推進力を高める選手達の姿には「これが本当のダービーだ!」と3年ぶりの興奮を覚えた。

しかし、結果は1-2の逆転負け。

これまで重要な試合の敗戦は何度も経験してきた。ただ、失ったものが大きければ大きいほど、もっとガンバを応援したくなった。悔しさは、愛しさと同義だったから。

今回は違う。苛立ち。失望。重過ぎる敗戦に、試合終了直後はネガティブな感情しか生まれなかった。試合後、挨拶で場内を一周する選手達に拍手を送ることなくスタジアムをあとにした。

たとえ、また敗れようとも

2020年9月14日

「もう考えるのやめよ」

試合後、悔しくて情けない敗戦を繰り返し思い返して、辿り着いた答えは「もう考えるのやめよ」だった。

「たかが趣味なんだから」
「ガンバが負けても給料下がらないし」

……なんて。現実逃避。サポーターのアイデンティティである“当事者意識(の高さ)”はどこへやら。

「選手はクラブを変えられるけど、サポーターはクラブを変えられない」

定番の愚痴である。これを聞いた選手はこう反論するかもしれない。

「サポーターは趣味だけど、選手は仕事」
「ガンバが負けたら給料が下がる」

さっきまで応援していた相手は「もう考えるのやめよ」では済まない世界に生きている。

ガンバに自分を重ねている場合ではない

何度か書いているが、私はガンバに自分の人生を重ねる癖がある。それは「ガンバ(選手)も頑張ってるし、俺も頑張ろ」というポジティブなストーリーに対して“のみ”であることに気が付いたのは、実は今回のダービー後だ。

「俺も頑張ろ」とはならない、今のガンバとの正しい向き合い方とは何か

ダービーに至るまでの直近2試合は、結果、内容ともに厳しいものだった。多くの批判を見聞きしたし、妥当な意見も多かった。

一方で、私は擁護とも取れる発信を続けた。

私のツイートを見て「ぬるい」「綺麗事はやめろ」と思った方もいただろう。しかし、すべてはダービーで勝つためのこと。応援する自分の精神衛生的にも、ツイートを見るかもしれないクラブ関係者のモチベーション的にも、ポジティブな発信が必要だと考えていた。

そして、その先にあったダービー2連敗。

「クソが……」

試合終了後に罵声を飛ばしたかったのは、隣に座っていたオジサンだけじゃない。愛が憎悪に変わるのは一瞬だ。ほんの1時間前に全身でガッツポーズを表現していた人とは思えない表情で、舌打ちを繰り返すオジサンを私は責めることができない

ポジティブがポジティブを生むとは限らないのが現実。ただ、ネガティブがポジティブを生むとも思わない。ネガティブな感情に引っ張られるのは簡単だからこそ、誰かが前を向かなきゃいけない。

「サポーターも頑張ってるし、俺も頑張ろ」

選手の勇気になりたい。2022シーズン後半戦はそういう順番なのだろう。選手の力になる可能性があることを1つでも多く。今はガンバに自分を重ねている場合ではない。

ダービーの日、いつも以上に手拍子をしている自分がいた。いつも以上に戦う選手達がいた。いつも以上に敗戦を悔しがる選手達とサポーターがいた。

「今まで全力でやれてなかったな……」と、ダービーを通じて気が付いた人は私以外にもいたはずだ。サポーターも、選手も、過去と比較しても仕方がない。この日の自分が2022年の新基準になる。

“負けてはいけない試合”に負けた後に進む道はきっと険しい。この週末以上に心が折れそうになる時もあるかもしれない。だから、ちょっと休憩。PSG戦を楽しんだ後は、少しでもポジティブに応援を再開しようと思っている。

結局、考えることはやめられなかった。

さよならサポーター -喪失と追懐の大阪ダービー-

2022年7月11日
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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き