なぜサポーターはクラブのSNSにクソリプを飛ばすのか -「TikTok」も「にじさんじ」も知らない世代の敗戦論-

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Jリーグが「TikTok」と提携した狙いは、Z世代への魅力発信だと言われている。短尺で刺激が強い動画をきっかけにJリーグに興味をもった若者は、ガンバ大阪の試合(90分)にどのような感想を持つのだろう。正直に言って、心配である。

誰が言ったか「Jリーグクラブは苦痛を売る商売」。

TikTokの世界とは違う現実がピッチにはある。「カメラ目線でニコニコしているイケメン」はいないし、「カメラ目線で目うるうるさせている美少女」もいない。そこにあるのは、味方のパスミスにうなだれるレアンドロ・ペレイラの姿。多分、Z世代は“いいね”を押さない。

「にじさんじ」コラボレーションをきっかけとして、Jリーグに興味を持った方も心配だ。コロナ前の観戦者調査によると、Jリーグサポーターの平均年齢は約43歳。“にじさんじライバー”のような美男美女は観客席にはあまりいない。自席の後ろに“謎解説おじさん”や“終始悪口おばさん”が座っていた場合、スタジアムに再訪問してくれる可能性は低いだろう。

インターネットの世界は誹謗中傷など、人間の汚い部分が実社会以上に可視化されている一方で(だからこそ?)、人気のあるコンテンツはファンタジー色が強い不思議。JリーグがZ世代へのアプローチを強化した結果、どのような文脈で感想が語られるのか注目している。

3回食べたら美味しさを理解できる

この話題を出したのは、敗戦時にSNSへ投稿される意見の過激化(陰湿化)が数年前より悪化しているように感じたことにある。Z世代をはじめ、次の世代、その次の世代にも長くJリーグを愛してもらう上で、クラブや選手に対して完璧を求める傾向が強まっていることは、正しいことなのかという懸念。

無論、そこには私も含まれる。「TikTok」や「VTuber」の影響は受けていないものの、「欧州サッカー(とJリーグのレベル乖離)」や「強かった頃の記憶」で、無意識に今のガンバに対して、必要以上に“キラキラしたもの”……つまり、理想を押し付けているのではないか。週末のスタジアムに非日常を求め過ぎているのではないか。低迷する成績以上に、満たされない気持ちの原因は自分にあるのではないか……そう自省している。

綺麗なもの(フィクション)を見過ぎて、現実を正しく評価できない。サッカーだけではなく、様々な場面でそうしたことは起きる。私は……おそらく皆さんにも「目の前のものをもっと大切にすれば良かった」と後悔した経験はあるだろう。批判や過度な期待は自分に返ってくる。

目の前のネガティブを受け入れ、乗り越えた先に短尺動画では味わえない感動がある。

正しい例えではない気もするが、「ラーメン二郎」と同じなのだ。3回食べて、やっと美味しさを少し理解できる。そして、その先に中毒(永遠)がある。塩試合や敗戦は、大きな喜びを得るための“前フリ”だ(オチがないケースもあるが)。

“はざま世代”である私の考えは甘いのかもしれない。ただ、辛くて、寂しいことも多い世の中だから、自分が一番好きなことに対してくらいは“許し”を持つことで、少しでも長く、深く愛することができればいいなと思っている。

Photo:おとがみ

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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き