年末になり、今年も地元での同窓会が何回か予定されている。馬鹿な思い出話に花を咲かしていた時は過ぎ、大学卒業から10年以上経つと話題は限られてくる。多くの参加者にとって共通の話題は「仕事」だ。大人の近況報告とは業務報告なのかもしれない。
友人たちの仕事話を聞いていて、気が付いたことが1つある。仕事の話題を明るく話す奴のベンチャー企業勤め、自営業率が高いということ。
私の見立てはこうだ。
多くの人間が介在する事業規模の大きな業務を行う大企業の社員よりも、事業規模は小さいが、大きな権限で仕事を行えるベンチャー企業の社員(自営業)の方が充実感を得やすい。小さなコミュニティ内で仕事が完結する分、ステークホルダーとの心理的な距離が近く、彼らの目線に自覚的になれるから。つまり、“見られている”意識が充実につながっている。
自分という存在を自分の目では見ることができない(他者からの目線でしか自覚することができない)以上、見られている意識の濃度は、仕事の充実度に大きく影響するのではないか。学生時代、意識の高い友人が言っていた「ベンチャー企業の方が成長できるよ」という言葉は、あながち間違っていないかもしれない。リアリティのない大きなお金が動くことよりも、目の前にいる貴方がどう思うかが大切なのだ。
森下監督から期待
前置きが長くなったが、ここから本題。ガンバ大阪U-23の活動が今シーズンで終了する。賛否両論あったものの『トップチームへの人材輩出』という観点においては律、敬斗、福田選手、食野選手……と多くの選手がトップチームで活躍した(欧州に移籍した)ことをふまえ、一定の成功を収めたと捉えていいだろう。そして、その要因として2019年シーズンより就任した森下仁志監督の存在は大きかった。
就任当初はジュビロ磐田やザスパ草津群馬での実績から不安視する声も多かったが、蓋を開ければ選手からの絶大な信頼をベースに、熱い指導で若手選手を続々とトップチームに引き上げた。
『ピグマリオン効果』という社会学でよく使われる言葉がある。森下監督が多くのインタビューで語っている通り、選手達に対して「2軍」「Bチーム」という目線ではなく、「お前達はここからトップで活躍できる素質がある」という期待や信頼を持って接したことが選手のモチベーションを高めた。だからこそ、“島流し”と表されることもあったU-23の環境下においても、選手を成長させることができた。
U-23の環境は過酷だ。試合の観客数は少なく、チームメイトが高校生(ユース)になる試合が多々発生し、試合中は年の離れた対戦相手から脅しのような言葉を吐かれ、名前を知らない主審の不可解判定に泣かされる。
そんな逆境でも選手達が頑張れたのは、「お前達ならできる」と信じて接した森下監督の影響が大きい。得点時、真っ先にベンチの森下監督にむかってダッシュする選手達の姿がその証拠だ。
唐山翔自への批判
期待が裏目に出る時もある。
第30節サガン鳥栖戦。U-23の有望株・唐山翔自選手が2度の決定機を外したことを批判された。若きエースへの批判は賛否両論。根本にある「決めて欲しい!」「やれるはず!」という想いは共通しているにも関わらず、サポーターは分断された。
救いは唐山選手がこの経験を糧に前を向くコメントを残していることだが、相手が期待に応えてくれなかった際の向き合い方は課題として残った。
サポーターの立場から考えるべきは、自身の言動の効果であるべき。唐山選手への批判が何をもたらすのか。敗戦後、サポーターからのブーイングを正面から受け止め、苦渋の表情でピッチを後にする姿からは、批判が次戦への活力に繋がっているとは思えなかった。
観客席から聞こえる森下監督の檄はサポーターと同等……もしかすると、それ以上の乱暴性を含んでいるかもしれない。それでも選手がその激をモチベーションと出来るのは、両者の間に信頼関係があるからに他ならない。
では、サポーターと選手は信頼関係を構築できないのか。
森下監督の檄もサポーターのブーイング(批判)も、根本では繋がっていると思っている。「もっとやれるはず」という期待(の裏返し)。ただ、そこを理解してもらえるだけの選手-サポーター間のコミュニケーションは現実的ではない。
数年前までブーイングをしない方針を持つ他クラブのサポーターを「ぬるい」と思っていたが、唐山選手のような若手への批判の是非を考える中で、サポーターは『ウー』のような激励スタイルで選手への期待を伝え続けることが在るべき姿なのかもしれない……と、今も自問を続けている。
Photos:おとがみ
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