チームスタイルの変遷から考える「ポヤトス体制」の意味 -ガンバ大阪2023年シーズンプレビュー-

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2023年1月9日、今シーズンの新体制発表を趣旨とした『2023シーズン キックオフイベント』が開催された。新監督&新加入選手の挨拶が行われた他、新たにユニフォームサプライヤーとなった「hummel(ヒュンメル)」製のユニフォームデザインもお披露目となった(宇佐美貴史選手が「背番号7」を継承するサプライズ発表も)。

このイベントで最も注目していたのは、クラブが掲げる今シーズンのチームスタイル。近年は残留争いのシーズンが続く中で、クラブが考える現在地、目指すサッカーとは何なのか。発表されたのは「攻守に主導権を握る魅力的なサッカーで勝利を追求する」というもの。イベント後半で実施されたポヤトス監督へのインタビューにおいても、同趣旨の発言を確認できた。

定まらないチームスタイルの歴史

イベントでは「強化方針変遷」がスライドと共に説明されたが、この記事でも今シーズンのチームスタイルを考える前提として、ざっくりと直近12年(西野朗体制以降)を振り返ってみたい。

【2011年】西野体制。攻撃的なスタイルで安定した成績を収め続けるも、2年連続無冠や、マンネリもあり、10年間続いた長期政権が終了。西野監督の心残りは「二川(孝広)が結婚しなかったこと」。

【2012年】山本浩靖氏(強化本部長)の乱。セホーン&呂比須のW指揮官招集で、シーズン序盤にチーム崩壊。異例の開幕5試合で解任。後任として、松波正信氏が監督就任も立て直せず。J2降格。

【2013年~2017年】長谷川健太体制。クラブが守備を覚える。J1昇格(2013年)、3冠(2014年)と、すぐに結果を残す。しかし、ACL準々決勝・全北現代戦での劇的勝利(2015年)あたりをピークに、チームは下降線を辿る。晩期は守備的なスタイルで結果が出ない“二重苦”に対するサポーターの不満が爆発。2017年、後味悪く契約満了。山内隆司社長曰く「長谷川監督から卒業」。

去り際の美学 -長谷川健太監督の退任スピーチ-

2017年11月26日

【2018年】第二次監督人事失敗。前体制の反省(反動)から攻撃的なスタイルへの“回帰”を目指し、賛否両論あったクルピ(元セレッソ監督)を招集。しかし、紅白戦ばかりの練習、自由を重んじるマネジメントが馴染まずチーム崩壊。シーズン途中には“禁断の”柿谷曜一朗選手へオファーも(破断)。7月解任。宮本恒靖氏がスクランブル監督就任。

自由なんていらない -クルピ流チームマネジメントについて-

2018年4月30日

共感なき半年間を越えて -宮本恒靖監督就任の意味-

2018年7月23日

【2019年~2021年】宮本恒靖体制。攻撃的なスタイルへの回帰は一時保留。守備を固める戦い方で、2020年にはリーグ2位を記録。世代交代も進み、今野泰幸選手遠藤保仁選手、オ・ジェソク選手ら功労者が、事実上の構想外で移籍。2021年はコロナの影響もあり、チームは不振に。敗戦後、宮本監督がキレ気味でDAZNのインタビューに答える姿が定着。5月に契約解除。その裏で若手選手からの求心力が高いU-23監督・森下仁志氏の評価が急上昇。

「ガンバらしさ」の模索 -宮本恒靖監督の契約解除をうけて-

2021年5月17日

期待の眼差し -森下仁志監督の檄、唐山翔自選手への批判から考える応援の在り方-

2020年12月19日

【2022年】片野坂知宏体制。「監督実績」「クラブOB」「人格者」という要素も相まって、期待値は高かったが……。宇佐美貴史選手の長期離脱などの影響もあり、チームは低迷。チームスタイルは意外にリアクション。中断期間後にはハイプレスに挑戦するなど、戦い方の“ブレ”もあり、8月に契約解除。小野忠史社長「本音は最後まで心中したかった」。後任の松田浩監督が、守備を重視した戦い方で結果を残す。松田体制続投を望む声もあり、2023シーズンの監督選びは意見が分かれた。

断ち切れなかった悪循環 -片野坂知宏監督の契約解除をうけて-

2022年8月17日

無論、サッカーというスポーツは複雑だ。あらゆる局面が存在する。「攻撃的 or 守備的」「ポゼッション or カウンター」「アクション or リアクション」……単純化して語る危険性は承知の上で、基本コンセプトとしてのチームスタイル(それに連動する監督選びの基準)が定着しない歴史からは、強化の難しさを痛感する。

先のW杯においても、ベスト16敗退という結果をふまえ、今後の日本代表のプレースタイルに関して様々な議論が行われた。「もっと主導権を握る戦い方を目指すべきではないのか」「いや、守備的に戦わなければW杯では勝てない」……等々。ガンバ大阪と重なる部分はあるが、違うのは、数年単位でループしている議論の歴史の中でも、日本代表は前進を感じさせること。残念ながら我がクラブは、2018年の監督人事失敗のダメージを未だに引きずっている(停滞している)ようにも見える。

ガンバ大阪を新時代へ

そして今シーズンの監督に就任したのは、ポヤトス氏。イベントでの笑顔を交えた受け答えや、「たこ焼きネタ」で、早くもサポーターの心を掴んでいる。

人選的には(松田監督よりも)片野坂監督の流れを汲むものであり、氏のスタイルを言語化すると「攻守に主導権を握る魅力的なサッカー」ということになるのだろう。まだ抽象度の高いスタイルの実体は開幕戦までのお楽しみ。ガンバ大阪にとっての原体験である「西野朗体制時代」の攻撃性は頭の片隅にありつつも、時代にあったスタイルを模索して欲しい。ロマンとそろばん……ポヤトス監督が良いバランスを見つけてくれるはず。

クラブは、難しい時代の渦中にある。

創立30年以上の歴史を重ね、広がりつつあるサポーターの世代差や、近年の成績低迷(クラブの求心力低下)を背景として、何を行うにしても分断が起きやすくなっている。

新クラブコンセプト(ビジネス強化)」「片野坂監督解任」「小野瀬康介選手の契約満了」「監督選び(チームスタイル)」……etc. インターネット上では、相手の立場や考えを想像せず、何のためらいもなく100%のクラブ批判を目にすることも増えた。

弱い時こそ団結すべきだが、弱いからこそ一体感が生まれない。最近は、勝つことでしか相互理解が進む未来は来ないのかもしれないとも感じている。負の時代にピリオドを。誰が、何が、この停滞感を打破するのか。期待と、不安と。

2023シーズン開幕まで、あと1か月と少し。

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ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き