たとえ、また敗れようとも

メディア寄稿実績

相手のことを「自分」と呼ぶ地域で育った影響もあるのだろうか。応援対象であったはずのそれは、いつからか自分自身を重ね合わせる存在へと変わっていた。ガンバ大阪が勝利するたびに、タイトルを獲得するたびに、まるで自分のライフステージが上がっていくような感覚を覚えた。良い時計を身に付けるが如く、高級車に乗り換えるが如く……“サポーター”という自身の代名詞が、アイデンティティの重要な一要素になっていた。

サポーターをやめるとき

2018年4月20日

敗北のシンクロ

小~中学生の頃は、ガンバ大阪のサポーターを名乗ることが恥ずかしかった記憶がある。負けて、負けて、負け続けて。当時のJリーグチェアマンから「消えてなくなれ」と言われてしまうクラブを応援しているダサさを認められなかった。ちょっと調子が良くても、大一番では必ず負ける勝負弱さに何度絶望したことか。

「なぜ勝てないのか」

当時、それは自分自身への問いでもあった。行き場のない苛立ちでもあったし、劣等感でもあった。何度教科書を読んでも理解できない授業、何時間ボールを蹴っても勝てない試合……思春期に何度も痛感した非力さは、今でも鮮明に思い出せる。せめて応援するものだけでも……その想いは全く叶わなかった。

ミニマムライフ世代。1980年代に生まれた我々世代は、そのような名称で括られている。車も乗らず、お酒も飲まず、挑戦よりもリスクマネジメントを望む傾向にある、と。多感な時期に「阪神大震災」「オウム真理教」「米国同時多発テロ」など、大きな事件を経験したことで、リスクを大きく見積もり保守的な思考をする。「草食系男子」なんて言葉で総称されている記事も読んだことがある。傷つきたくない。嫌われたくない。でも誰かに取られたくもない(©西野カナ)

悲しいかな「ミニマムライフ世代」のステレオタイプに私は結構、当てはまっている。上記のような社会的な出来事に加えて、ガンバ大阪弱小期と自身のショボい思春期が重なっていた影響は大きい。“ハイブリッド”ミニマムライフ世代を自負する私は、世代特徴であるリスクマネジメントに加え、破滅思考も持っているからたちが悪い。劣勢になったら心が折れる。挽回をイメージできない。2ちゃんねるに書き込まれる「もうだめぽ」の文字に癒しを求め続けた日々。諦めと共に人生を歩んできた。

クラブ愛は合理性を越えて

状況が変わってきたのは、大学に入学した2004年頃から。ゼミ、バイト、サークル……同じようなバックボーンを持つ人達で形成されるコミュニティに所属し、そこで過ごす時間の長さも影響したのだろう。好きなもの(学問、趣味、仲間)に囲まれたことは、自己肯定感を回復させた。

たとえ井の中の蛙であっても、前向きに生きることは私にとって大きな進歩で、将来を意識したスポーツ業界でのボランティア活動や読書など、自己投資を始めたのもこの頃からだ。自分の未来を信じ始めることが出来つつあった。

その時期は奇しくもガンバ大阪が強くなり始めた頃と重なる。2005年のリーグ初制覇から西野監督が退任する2011年。“黄金時代”は、私がホームアウェイ問わず、最もスタジアムに通った時期でもある。学校、バイト、就職活動、会社、家庭……あらゆる場所で(明るい話題である)ガンバの話題を振られ、認めることが恥ずかしかったガンバサポーターである自分を積極的に公表するようになっていた。

このシンクロは偶然か、それとも……。

応援していると思っていた対象から実は応援され、勇気づけられていた。「サッカークラブは苦痛を売っている」と言う人がいる。負けて深まるクラブ愛。困難に立ち向かう姿があるからこそ応援したくなる。苦難を乗り越えた先の勝利にカタルシスがある。

1失点完封の罠 -なぜガンバはこんなにも自分みたいなのか-

2019年4月16日

対戦相手を分析して、自身を磨き続けて、あらゆる理論を突き詰めてもなお負けることもあるサッカー。偶然性の要素も多いこのスポーツの不条理さや、エビデンスだけでは説明できない部分に真理を感じてしまうのは自分の人生と同じだ。

多少改善はされたとはいえ、自分の人生で勝利のカタルシスはまだ味わっていない。現状、見えているのは壁ばかりだ。それでも歩みを続けられるのはサッカーを応援しているからだと思う。負けて負けて負けてバーベキューして負けて……勝つ。これくらいがサッカーも人生もちょうどいい。

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1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。2020年に筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。現在はスポーツ系出版社のライター&WEBサイト運営。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆。F1と競馬も好き